日曜に書く

論説委員・井伊重之 出口封じたガソリン補助

岸田文雄政権が物価高対策のガソリン補助金をめぐり、その出口戦略に苦慮している。今年1月に1リットル当たり補助上限5円でスタートしたが、現在は同35円を補助しており、毎月約3千億円の税金を投じてガソリン価格を抑え込んでいる。

政府内では11月から段階的に補助上限を引き下げる案を検討していた。だが、対策の決定直前に岸田首相が補助据え置きを決め、年内は現行水準を維持することにした。「物価対策を講じる中でガソリン補助を引き下げるのは、間違ったメッセージを伝える」との懸念が与党内で高まったからだという。

価格介入で市場機能せず

では、一体いつまで補助を続けるのか。店頭価格を人為的な統制で抑え込んでいる限り、値上がりで需要が落ち、最終的に価格が下がるという市場メカニズムは機能しない。政府は補助金の出口を自ら封じた。

ガソリン価格の引き下げばかりに税金が使われているが、家計にとっては電気・ガス代の値上がりの方が影響は大きい。電力業界では規制料金の値上げ検討も始まった。欧州では高騰するエネルギー価格の上昇を抑えるため、市場改革を検討している。物価高に対する岸田政権の基本姿勢が問われている。

ガソリン補助は、ガソリンや灯油などの燃料価格の上昇を一時的に緩和するために始めた。当初はレギュラーガソリン1リットル当たり5円を石油元売り会社に払い、卸売価格の引き下げを通じて値上がりが続く店頭価格を抑制してきた。

その後、ロシアのウクライナ侵攻と円安進行でエネルギー価格が高騰すると、政府は補助上限を2回引き上げ、期間も延長した。今回の対策では9月末の期限を年末までさらに延長し、補助額を35円で据え置いた。

本来のガソリン価格は、全国平均で1リットル当たり200円を超えるが、補助金効果で170円前後と落ち着いている。ガソリンだけでなく、灯油や軽油などにも補助金が投入され、価格抑制が効いている。

バラマキの早期収束を

しかし、これまでのガソリンをはじめとした補助金で約1兆8千億円が投入され、今回の対策で年末までの予算として1兆3千億円程度の支出を閣議決定した。政府内には「バラマキを早く収束させないと、補助金による価格引き下げが当たり前になってしまう」と懸念する声が上がっている。

鈴木俊一財務相も「この事業が時限的、緊急避難的であるという趣旨を踏まえなければならない」と述べ、今後の原油価格次第で事業の見直しが必要との考えを示す。

総務省の家計調査(5月)によると、2人以上世帯の家計が支出した「光熱・水道代」などのうち、ガソリン・灯油代は約6500円だった。これに対し、電気・ガス代は約1万7700円と前者の2・7倍だ。電気・ガス代は前年同期と比べ2割以上値上がりしており、家計の負担はこちらの方が重い。

電力業界からは、家庭向け電気代の1割超を占める「再生可能エネルギー固定価格買い取り制度」(FIT)の賦課金について、公費による負担を求める声が上がっている。

これに対し、政府は当面、家庭や企業の節電に応じてポイントを付与する「節電ポイント」で家計負担の軽減につなげたい考えだ。ただ、経済産業省は電力需給の逼迫(ひっぱく)対応で節電に重点を置いており、その制度設計は中途半端だ。

市場改革を始める欧州

ロシアからの天然ガス供給が削減され、価格高騰に直撃されている欧州では、「脱ロシア」に向けた安定供給を通じ、価格安定を目指す動きが始まっている。欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は「電力市場の包括的な改革が必要だ」として価格抑制と安定供給を図る市場改革の必要性を強調する。

また、英国のトラス首相も電力市場の改革に意欲を示し、安定供給を通じて価格の抑制を目指す構えだ。EUではエネルギー価格の高騰で超過利潤を生んでいる企業に新税を課すなど厳しい取り組みも始まっている。

日本もガソリン補助金のような対症療法を続けていても、エネルギー価格の安定は見込めない。とくに燃料価格の高騰は長期化が見込まれており、バラマキで乗り切るには限界がある。政府・与党は、来月に新たな物価高対策をまとめることにしている。エネルギーの安定調達を通じた価格の安定を目指すべきである。(いい しげゆき)

会員限定記事会員サービス詳細