繰り返される子供の置き去り死 「スクールバス大国」の防止策

幼稚園・保育園のバスの送迎担当者267人のうち、「過去1年に園児だけを残してバスを離れた」と回答したのは15人―。ある企業の調査結果が物語るのは、静岡県牧之原市の認定こども園で今月起きた悲劇が、決して偶然ではないという現実だ。尊い命をどう守るべきか、通園バスでの園児置き去り防止を巡り、各地で対策の見直しが進められている。海外ではバス内に安全装置の設置を義務付けている国もある。専門家は「ミスは必ず起きるとの前提で対策を講じるべきだ」と訴える。

「通知」あったのに

「痛ましい事案が再度起きてしまったことは極めて遺憾で断腸の思い。一体あの通知は何であったのかと思う」。9月6日、永岡桂子文部科学相は記者会見で語気を強めた。

静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で同月5日、園児の河本千奈(ちな)ちゃん(3)が通園バス内で意識を失っている状態で見つかり、搬送先の病院で熱中症による死亡が確認された。登園時に下車せず、約5時間にわたり置き去りにされたとみられる。静岡県警は園が安全管理を怠ったとみて、業務上過失致死容疑で詳しい経緯を調べている。

永岡氏が言及した「通知」は昨年8月、幼稚園を所管する文科省と厚生労働省などが全国の自治体に出したものを指す。同年7月、福岡県中間市の保育園で送迎バスに取り残された5歳の男児が死亡した事件を受け、登園時の人数確認を複数回行うといった安全管理の徹底を求める内容だった。

「ルールが形骸化」

悲劇はいつ、どこで起きてもおかしくはない。

合成ゴムなどを扱う三洋貿易(東京)は今年5月、全国の幼稚園・保育園のバスの送迎担当者(運転手、添乗員、運行管理者)267人を対象にオンラインで実態を調べた。

それによると全体の5・6%にあたる15人が「直近1年間で園児を残したままバスを離れた経験がある」と回答。そのうち3人は、園児をバスに残していることを認識していなかったという。

置き去りが発生する理由についても尋ねたところ、いずれの属性も65%以上が「送迎担当者や職員の意識が低いから」と答えた。ただ添乗員からは「人手不足だから」(約56%)、「登園確認などのルールが形骸化しているから」(約43%)といった声も聞かれた。

米国では1千人死亡

個人の意識だけでは限界があるのも事実。海外では新たなシステムを導入するなどの動きも出ている。

同種の死亡事故が相次いだ韓国では2018年に法改正を行い、送迎バス内に置き去りを防ぐ装置の設置を義務付けた。エンジンを切った後、3分以内に車両後方のボタンを押さないと警報音が鳴る仕組み。設置には政府からの交付金が出るが、車内点検を怠った運転手には罰金が科される。

米国では非営利団体の調査により、2021年までの32年間で約1千人の子供が高温の車内に取り残されて死亡したことが判明。人の動きを検知できるセンサーを搭載したスクールバスも登場し、再発防止を模索している。

ヒューマンエラーは生じる前提で対策を

置き去りの実態調査を行った三洋貿易は、この検知システムを近く国内に導入することを計画。同社の堀内登志徳(としのり)さん(37)によると、センサーはバスの天井に設置され、置き去りになっている人を検知すると、あらかじめ登録しておいた担当者の携帯電話にメッセージなどが届く仕組みになっている。

三洋貿易が導入を計画する置き去り検知センサーのイメージ。バスの天井に設置し、レーダーで置き去りを検知する(同社提供)
三洋貿易が導入を計画する置き去り検知センサーのイメージ。バスの天井に設置し、レーダーで置き去りを検知する(同社提供)

ルクセンブルクの企業が開発した同システムは「毛布の下に寝ている乳児の動きも検知できる」(堀内さん)ほどの精度を誇る。座席下に潜りこんだ子供でも容易に発見できるという。

静岡県での事件以降、保育施設や自治体から問い合わせが相次いでいる。堀内さんは「人による降車確認などは継続しつつ、最後のとりでとして検知システムを使ってもらい、二重三重に事故を防いでもらいたい」と話す。

大阪教育大教育学部の小崎恭弘(やすひろ)教授(保育学)は「ヒューマンエラーは必ず生じるという前提で、人的リソース(資源)だけでなく、システムも使いながら子供の安全を確保する『壁』を増やすことが大切だ」と強調する。

海外の先行例のように、バス内の安全装置の設置義務化と国による費用補助の必要性を示した上で「危機管理について学ぶ研修制度を作るなど、子供の命を守るために考えうる対策を講じていくべきだ」としている。(小川原咲)

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