朝晴れエッセー

命つなぐ「ウーバージュース」・9月25日

日本では以前から存在していたらしいウーバーイーツというものを、ここ2年のコロナ禍で知った。外食できない、買い物に行けない家庭に、いち早く食事を届けてくれる。最近よくウーバーイーツのリュックを背中に走っている若いお兄ちゃんを見かけるようになった。ウーバーとは、ドイツ語で越えるとか、すごいという意味らしい。

私の母は、認知症のため入所した介護施設で看取りの段階に入り、静かに人生の終楽章を迎えようとしている。延命措置はしないでほしいと、かつて言っていたし、私たち娘3人も、母の最期は苦しまず身体にできるだけ負担をかけずに、穏やかなときを過ごさせてあげたいと気持ちが一つになり、今水分のみを受け付ける母に毎日手作りの甘酒や果物を搾り、届けている。今はそれぞれの作った物を少しずつでもと、施設のスタッフさんがひと匙ひと匙、口に運んでくれている。

「皆さんが持ってきてくださる物だけを飲まれます」と聞いて、ますます責任重大になってきた。1日でも長くという思いと、いや、今は母が最後の親孝行をさせてくれているのだと。そして言葉にならない言葉を一人一人に言って聞かせるごとくに口を動かしている母。それでもまだ言葉が言えた頃、「ありがとう」と何度も言っていた。苦労もあったし悲しみも超えてきた母だけれど、ありがとうという言葉が残されていることに感動した。

いつか来る別れ。今日も私たちは「ウーバージュース」を配達している。

前川和子(68) 兵庫県宝塚市

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