『点と線』『砂の器』など多くのベストセラーを送り出し、戦後の社会派推理小説ブームを牽引(けんいん)した作家の松本清張(1909~92年)。没後30年の節目を迎えた今年、オリジナル編集の短編集と評論集が刊行され、ミステリー界に進出し始めた初期の仕事に光が当たっている。この2冊をひもとき、「清張以後」という言葉を生んだ巨人の革新性と、長く読み継がれる秘密を探った。
日常への鋭い眼差し
7月刊の『なぜ「星図」が開いていたか 初期ミステリ傑作集』(新潮文庫)には昭和30~31年の間に発表された8つの短編が収められている。芥川賞を受賞し純文学や時代物を多く手がけてきた清張が、ミステリーへと軸足を移し始めた転換期にあたる。