多様性か公平性か トランスジェンダーの競技参加 杉山さん「逃げずに議論を」

2021年8月、東京五輪の重量挙げ女子87キロ超級で競技を終え、手を振るニュージーランドのローレル・ハバード
2021年8月、東京五輪の重量挙げ女子87キロ超級で競技を終え、手を振るニュージーランドのローレル・ハバード

生まれたときの身体的性別と、性自認が異なる「トランスジェンダー」選手の競技参加を巡り、各競技団体が対応を議論する動きが活発化している。昨夏の東京五輪女子重量挙げに、トランス女性のローレル・ハバード選手(ニュージーランド)が出場して1年。東京大会が掲げた「多様性と調和」を象徴する出来事とされる一方、公平性の観点から賛否が分かれる。元フェンシング女子日本代表で、日本オリンピック委員会(JOC)理事を務めるトランスジェンダーの杉山文野(ふみの)さんは、「昔は議論の土俵にすら上がっていなかった。存在が可視化されたことは、大きな一歩だと思う」と前向きにとらえる。

元フェンシング女子日本代表でトランスジェンダー 日本オリンピック委員会理事 杉山文野(ふみの)さん
元フェンシング女子日本代表でトランスジェンダー 日本オリンピック委員会理事 杉山文野(ふみの)さん

米国で今年3月、あるトランス女性の競泳選手が話題となった。男性から女性に性別を変更したリア・トーマス選手だ。全米大学体育協会選手権に出場し、女子500ヤード(約457メートル)自由形を制した。トーマス選手は2024年パリ五輪出場を見据え、国内の代表選考会を目指す意向を表明した。

しかし、6月に国際水泳連盟(FINA)がジェンダーに関する新指針を策定した。トランス女性には12歳未満か、男性として思春期(第二次性徴)を経験していないと証明できる場合に限り、女子種目への参加を認めた。FINAは、性別適合手術やホルモン治療を行ったとしても身体的優位性は保たれると判断。現状のルールでは、トーマス選手のパリ五輪参加はかなわなくなった。

競技後、コーチと話すトランスジェンダーのリア・トーマス=1月、米マサチューセッツ州ケンブリッジ(AP=共同)
競技後、コーチと話すトランスジェンダーのリア・トーマス=1月、米マサチューセッツ州ケンブリッジ(AP=共同)

杉山さんは、トランス選手の競技会参加について「自分が競技をやっていたころは、『自分らしくありたい』つまり『男性らしくありたい』と思うと、競技者としての人生はなかった。逆に、競技を続けたいと思うと、自分らしくいられなかった。自分らしくプレーする道が開けたのは、喜ばしいこと」と話す。

近年、LGBTQ(性的少数者)を取り巻く情勢の変化に伴い、LGBTQを公表して五輪に参加する選手は増加傾向にあり、昨夏の東京五輪では過去最多の186人に上る。ハバード選手はトランス女性として史上初めて五輪に出場した例となった。

一方、身体的に優位ではないかとの意見もある。杉山さんは「トランスジェンダーのことが話題になりがちだが、そもそもスポーツには、たくさんの不公平が存在している」と主張する。同じ女子のカテゴリーでも、身長160センチの選手と同190センチが戦っている競技もある。裕福な国で最新鋭の設備を使ってトレーニングしている選手もいれば、靴を買うことすらままならない選手もいる。「それって本当に公平なんだろうか」と問いかける。

国際オリンピック委員会(IOC)は、トランス選手の扱いについて各競技団体に判断を委ねている。これまでは、筋肉や骨格の発達を促す「テストステロン」が基準値以下であることなどをガイドラインで定めていたが、東京五輪後の昨年11月に改定し、テストステロンの基準値を撤廃した。公平性や証拠に基づくアプローチをすることなど10項目の基本原則を提示し、各競技団体に参考にするよう求めている。

杉山さんは、こうした取り組みについて、男女の枠組みを越えて〝着地点〟を探っていくことも必要ではないかと指摘。「一定の属性の人だけが、スポーツ界から排除されるようなことがあってはならない。感情ではなく、科学的なデータを参考にしながら、逃げずに議論していければいいと思う」と力を込めた。(運動部 久保まりな)

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