コーヒーを片手に、ミーティングやパソコンを開く人たちでにぎわうコワーキングスペース。その一角に座ると、不意に足元に温かさを感じる。机の下をのぞくと、そこにくつろぐのは中型犬の「クマ」。なでると気持ちよさそうな目をして寝息を立て始めた。利用者らの机を回っておやつをもらう小型犬の「ビー」は、触れ合いを楽しみながら仕事のモチベーションを上げている。
コワーキングスペースで保護犬と触れ合えるサービス「ポーワーキング」では、保護犬が「バディ」として人間とともに働いている。
× × ×
犬とともに働くという思いを込め、肉球を意味する「ポー」とコワーキングを掛け合わせて名付けた同サービスを手がけるのは、保護犬の人材ならぬ犬材派遣会社「Buddies」(文京区)。毎週木、金曜日にコワーキングシェアオフィス、BLINK六本木(港区)で提供している。保護犬と一緒に働けるほか、ヨガやピアノコンサートなどのイベント、保護犬に関するセミナーなども行われている。
「楽しく働くことを通じて、生きる道や、やりがいを感じてほしい」と獣医師で同社代表の寺田かなえさん(32)。人間の目を見て状況を読み取るのが得意なクマは、集中しているときは静かに寄り添い、タイミングを見計らってじゃれつき休憩を促す。ビーは何度も訪れる人のことを覚え、出迎えてくれたり顔をなめたりする。愛嬌(あいきょう)のある「トビー」は、利用者らが積極的に触りたくなる性格で癒しを与える。それぞれの持ち味で仕事を果たしている。
動物と触れ合うとオキシトシンが分泌され、ストレスの低下や仕事の生産性向上が見込める。犬たちも人間と触れ合うことで、ストレスが軽減されると、同社の検査結果からも判明している。また、多くの利用者らと過ごす環境から、社会性も身につくという。
× × ×
生まれる前から保護犬が家にいる環境で、犬とともに育った寺田さん。「人間によって不利な状況にある保護動物の環境を変えたい」と保護活動に携わり、今年2月に同サービスを開始した。
利用者へのアンケートでは、保護犬へのイメージは「かわいそう、つらい」などネガティブなものが多かったが、利用後は「かわいい」などに変化が見られた。「保護犬をポジティブなイメージに変えたい」と、日常的な場面で触れ合うことで、固定観念を覆したいという。
同社は企業へのサービス提供やイベントなども行っており、バディドッグたちの活動は広がっている。
寺田さんの描くビジョンは、人間と動物の健康と環境の健全性が相互作用するという、「ワンヘルス」の実現だ。「犬と人間がウィンウィンになる健全な関係性を築きたい」。殺処分を免れた後も、シェルターでなかなか現れない里親を待ち続けるという生き方のほかに、働きながら自分の居場所を見つけるという新しい生き方を提案している。
「保護犬も『十犬十色』。保護犬が当たり前に街にいる多様性を実現したい」
料金や問い合わせは同社サイト(https://buddies.life)から。(鈴木美帆)