8月大雨、山形に爪痕 農業被害、住居移転…「苦しむ多くの人がいる」

大雨で冠水し、変色した枝豆の葉を示す新野勝広さん=9月7日、山形県川西町吉田(柏崎幸三撮影)
大雨で冠水し、変色した枝豆の葉を示す新野勝広さん=9月7日、山形県川西町吉田(柏崎幸三撮影)

東北を中心に大きな被害をもたらした8月の大雨。山形県では被害総額が474億円を超え、風水害としては過去最大となった。農業をあきらめかける農家。氾濫した河川の堤防建設で住まいの移転を迫られる人々。9月20日には台風14号が東北地方を通過し、さらなる被害におびえた。「今も苦しむ多くの人がいることを知ってほしい」。災害の爪痕が残る県内を歩いた。

「農業やめようか」

県南部の飯豊(いいで)町。「日本で最も美しい村連合」にも加盟する人口約6500人の山里で、刈り取り間近の稲穂が土砂に埋まっていた。

小白川(こじらかわ)地区の米農家、舩山文利さん(76)は、田んぼが浸水した上、納屋に水が入り乾燥機なども壊れた。

「入っていた保険は補償の対象外と言われ、修理代はない。もう農業をやめようかと考えている」

同じ地区にある夏アスパラガス団地も土砂が流入。新規就農者が育てた作物の大半が収穫できなかった。

県内の大雨による農作物被害は4351ヘクタール、16億円余り。農地や施設、森林などを含む農林水産業の被害全体は、県南を中心に109億円を超えた。

飯豊町の東隣、川西町は枝豆用の大豆「秘伝豆」のブランドで知られる。地元JA管内で毎年約3億円の売上があり、川西町が半分を占めるが、地元JAの枝豆部会長、新野(にいの)勝広さん(57)は「今年は全滅だ」。

味は例年通りなのに、出荷後に変色するため出荷できず、収穫量は町全体で例年の半分以下。冠水して泥がついた枝豆は光合成ができなくなるため、一部を残し埋め戻した。来年には肥料になるという。

新野さんは「離農者が出る可能性もある」と表情を曇らせた。

JR復旧見通せず

鉄路には雑草が生い茂っていた。米沢市と新潟県村上市の坂町を結ぶJR米坂線。飯豊町で鉄橋が崩落するなどし、全線の75%に当たる約68キロで運休が続く。

大雨で崩落した鉄橋。復旧の見通しは立っていない=9月12日、山形県飯豊町小白川(柏崎幸三撮影)
大雨で崩落した鉄橋。復旧の見通しは立っていない=9月12日、山形県飯豊町小白川(柏崎幸三撮影)

JR東日本管内では8月の大雨で6路線が一部不通となっている。米坂線について吉村美栄子知事は「一日も早い復旧を」と要望。同社は奥羽線を除く五能、津軽、米坂、磐越西、花輪の5路線について復旧に時間がかかるとの見通しを示している。

また、米沢市から福島県喜多方市を結ぶ国道121号は、路面崩落の影響で通行止めが続く。県の要請を受けた国が「直轄代行」と呼ばれる手法で工事を肩代わりし、11月にも片側交互通行が可能となる。

だが、本格復旧を担当する県は「年内の復旧は困難」としており、本格復旧の日は見通せない。

最上川堤防に合意

最上川があふれ、浸水被害が相次いだ大江町左沢(あてらざわ)の百目木(どめき)地区。住民らでつくる堤防整備推進委は8月25日、国土交通省の堤防建設案に合意した。

大雨で浸水した山形県大江町左沢の百目木地区(中央)。湾曲部分の堤防建設案で合意した(8月4日撮影)
大雨で浸水した山形県大江町左沢の百目木地区(中央)。湾曲部分の堤防建設案で合意した(8月4日撮影)

地区を流れる最上川がU字型にカーブする独特の地形から、文化庁が「重要文化的景観」に選定、景観への配慮から堤防がなかった。だが令和2年の大雨で川が氾濫。翌年、建設案の検討が始まったが、意見がまとまらないうちに2度目の被害に遭った。合意は、その3週間後だった。

計画案では、川と堤防の間にスペースを設け、景観をなるべく損ねないよう配慮。長さ約350メートルで令和9年の完成を目指す。

一方、約20世帯が移転を迫られる。その一軒で最上川沿いの温泉旅館主、柏倉京子さん(67)は「ここほどよい場所はほかにないけれど、毎年のように水害に遭っていては商売にならない。安心して生活するためにはやむを得ない」と話した。移転後は廃業も考えているという。

9月20日には、九州を縦断し被害をもたらした台風14号が東北地方を通過。「8月の大雨で壊れた箇所の改修が済んでいない上に、台風が来ることが気がかりだったが、幸い被害はなかった」と柏倉さんは胸をなでおろした。

川西町の主婦、須藤千映(ちあき)さん(50)は8月の大雨で自宅が浸水し、現在もトレーラーハウスで寝泊まりする。

「あの大雨の日、冠水した道路に冷蔵庫がプカプカ浮いていた。胸まで泥水に入りながら心配で会社を見に行った人がいた」と振り返り、こう訴えた。

「多くの被災者がいること、災害で苦しむ多くの人がいることを、もっと知ってほしい」(柏崎幸三)

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