円安を起爆剤に投資呼び込み 「悪い物価高」打破への一手

国民生活をむしばむ「悪い物価上昇」を払拭する策はあるのか。政府は経済対策で家計の止血に必死だが、本来は歴史的な円安を反転攻勢の起爆剤に利用して、国内に投資を呼び込むのが本筋といえる。企業が海外に蓄えた資金を内需喚起に還流させる仕組みづくりが、日本の国際競争力を向上させるためにも欠かせない。

政府は今月、所得が少ない住民税非課税世帯に5万円の給付金を支給するといった物価高対策を決めた。「切れ目なく大胆な対策を講じていく」(岸田文雄首相)と威勢はいいが、みずほリサーチ&テクノロジーズの試算では、物価高に伴う今年度の1世帯当たりの負担増は約8万1千円(9月以降の円相場が平均1ドル=145円を想定)に上る。

円相場の今年の下落幅は既に30円を超え、日米欧がドル高是正で合意した1985年のプラザ合意以降では最大になった。急速な円安に対応せず対症療法を繰り返しても効果は乏しい。

円安の主因は米国の金融引き締めに伴う日米金利差の拡大だ。ただ、原発再稼働の停滞による火力燃料の輸入負担増や、訪日外国人観光客(インバウンド)解禁が遅れて円安の利点を生かせないなど、政策運営が被害を拡大している。政府もようやくこうした課題に本腰を入れ始めたが、対応を加速する必要がある。

今後求められるのは、円安をバネにした産業空洞化の解消だろう。海外に拠点を移した企業の資金を呼び戻し、国内の設備投資や人的投資を増やすことができれば、日本経済を低迷させた目詰まりを解消できる。米中対立でグローバル化の反転が始まり、国内産業の育成は経済安全保障の観点からも重要になってくる。

一案として挙がるのは、企業が海外子会社から本国に資金を戻す際の税金を下げる「レパトリ減税」。過去にも米国のブッシュ政権などが導入し、設備投資や雇用の原資になった。現下の円安なら外貨資金は国内で使い出があり、外国為替市場での円買いを伴うことで円安対策にもつながる。

みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストによると、日本企業の海外子会社の内部留保残高は37・6兆円に上るが、レパトリ減税は慢性的な円高恐怖症で議論が進まなかった。市場をゆがめ他国の批判を受ける為替介入と異なり、自国企業の資金を還流させて内需を刺激するこうした政策は正攻法であり、現状打開の一手になりそうだ。(田辺裕晶)

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