亡き編曲家への思い込め 埼玉・伊奈学園高吹奏楽部

来月の大会に向けて練習に取り組む伊奈学園総合高の吹奏楽部員たち=22日午後、埼玉県伊奈町(星直人撮影)
来月の大会に向けて練習に取り組む伊奈学園総合高の吹奏楽部員たち=22日午後、埼玉県伊奈町(星直人撮影)

「吹奏楽の甲子園」と呼ばれる全日本吹奏楽コンクール高校の部の常連校、埼玉県立伊奈学園総合高(同県伊奈町)吹奏楽部が、来月23日に名古屋市で開かれる今年の大会に向けて練習に励んでいる。伊奈学園は、昨年8月に69歳で亡くなった作・編曲家の森田一浩さんと関係が深く、森田さんが編曲を手がけた管弦楽曲などをコンクールで取り上げて独特の存在感を発揮してきた。今年も森田さん編曲の作品で大会に挑み、その遺志を受け継ぐ決意をサウンドに込める。

22日夕、伊奈学園の校内の一室では吹奏楽部員たちが真剣な表情で合奏に取り組んでいた。同じフレーズを繰り返し演奏し、その都度、顧問の宇畑知樹教諭(54)が改善すべき点を指摘していく。

強豪バンドとして知られる伊奈学園が初めて森田さんとタッグを組んだのは、全国大会に駒を進めるようになった直後の平成9年だった。宇畑さんの友人で、埼玉県越谷市を拠点に活動する「越谷市音楽団」音楽監督の佐々木幹尚さん(56)に紹介され、初めて編曲を依頼した。

森田さんが手がけた「中国の不思議な役人」(バルトーク作曲)を演奏したところ、それまでのサウンドに比べて「見違えるように音が変わり驚いた」と宇畑さん。以降、コンクールや演奏会に向けて森田さんに編曲を依頼するようになり、森田さんは伊奈学園のために約30曲を編曲してきた。「森田作品」によって全日本吹奏楽コンクールで金賞を受賞した回数は実に14回に上る。

佐々木さんによると、森田さんの編曲には演奏者への心遣いがにじんでいるという。例えば、ソロの直前には、演奏者が〝準備〟のために音を出す部分が設けられているケースが多い。サウンドを安定させるため原曲にない音を加えることもあり「細かい気配りと優しさが見え隠れする」。それでいて、聴く側にとって違和感なく仕上がっていると佐々木さんは解説する。

伊奈学園でユーフォニアムを担当し、現在はOB吹奏楽団で活躍する小林健太さん(34)は「森田先生が編曲した曲を吹くと気持ちいい。『楽器がうまいのではないか?』という錯覚に陥ることがある」と振り返る。

来月の大会で演奏するのは森田さん編曲のバレエ音楽「三角帽子」(ファリャ作曲)だ。吹奏楽部のリーダー役「三役」の一人、臼田もも花さん(18)は「森田先生に届くような演奏ができたら」。宇畑さんは「楽譜はずっと残っていくもの。数々の作品の中に森田先生の気持ちは生きている。これからも一音一音を大切に生徒たちに伝えていきたい」と力を込めた。(星直人)

レパートリー開拓への「野心」

吹奏楽のために作曲された楽曲を演奏するか、それとも、管弦楽曲などをアレンジした作品を取り上げるか―。全日本吹奏楽コンクールに挑むアマチュア楽団にとっては永遠の命題といっていい。

伊奈学園は「アレンジ派」の全国大会常連校の一つとして吹奏楽ファンに広く知られる存在だ。

その立ち位置は、四半世紀にわたる森田さんとの二人三脚によって築かれた。マーラーの「交響曲第1番《巨人》」、リストの「レジェンド」など、吹奏楽で取り上げられる機会が少なかった作品に果敢に挑み、原曲をたくみに再構成した独自の世界観を作り上げてきた。

「伊奈学園―森田一浩」のタッグの軌跡からは、コンクールでの賞の獲得や上位大会進出という目標とは異質な、吹奏楽の新たなレパートリーの開拓を図ろうという意思が感じられる。

昭和59年の創部以来の歩みの中で、最良のパートナーを失った今は最も大きな節目かもしれない。これからも、アマチュア吹奏楽界を牽引(けんいん)する野心的なバンドであり続けてほしい。(松本学)

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