旧統一教会・祝福2世が訴える「宗教虐待」と四面楚歌 

記者会見する世界平和統一家庭連合の教会改革推進本部の勅使河原秀行本部長(左)ら=22日午後、東京都渋谷区
記者会見する世界平和統一家庭連合の教会改革推進本部の勅使河原秀行本部長(左)ら=22日午後、東京都渋谷区

親からのお仕着せの「信仰」に、人生を奪われたくない-。霊感商法や高額献金が問題になった旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)を巡り、その信者を両親に持つ「宗教2世」が始めた署名活動に共感が広がっている。親からの信仰の強制は児童虐待にあたるとして、行政の介入や法規制を求める内容。インターネットを通じて呼び掛けを行うある2世は「恋愛すら許されない苦しみを理解してほしい」と訴える。

関東地方に住む20代の高橋みゆきさん(仮名)は安倍晋三元首相が奈良市で銃撃された翌日の7月9日、署名サイト「Change.org」で、「#宗教2世に信教の自由を」と題した活動をスタートさせた。

事件で逮捕された山上徹也容疑者(42)=殺人容疑で送検、鑑定留置中=の家庭では、母親が旧統一教会に傾倒し、約1億円の巨額献金の末に破産。山上容疑者は教会への恨みから、つながりのある政治家とみた安倍氏を銃撃した、と動機を語っている。

高橋さんは、教会の合同結婚式でマッチングされた両親のもとに生まれた「祝福2世」と呼ばれる存在。信者の中でも特別な「神の子」とされてきた。

幼少期の最初の記憶は教会での礼拝前後に同世代の子供と遊んだこと。自宅には10個以上の壺が並んでいた。困窮はしていなかったが、献金するため豊かとはいえなかった。「こういう家なんだ」と自分に言い聞かせながら、信仰に起因する生きづらさ、違和感もずっと感じてきた。

たとえば、悪い霊をはらう「役事(やくじ)」という儀式に参加したときのこと。「サタンの誘惑が体に染みついている」と信者の男性に体をたたき続けられ、腫れる背中に涙をこらえるしかなかった。

「間違っている」と確信したのは数年前のこと。自由恋愛は数ある禁忌の中でも最も重い罪と教え込まれてきたが、好きという感情を抑えることはできなかった。ある日異性と交際していることを親に知られた。「地獄に落ちるぞ」

教会では「心の中で答えを見つけろ」と説教され、相手との連絡を禁止された。40日後、再び教会で思いを聞かれ「まだ愛している」と伝えたが、強引に別れさせられたという。

うつうつとした思いを抱えながらのぞいた交流サイト(SNS)で、同様に恋愛で苦しむ2世の存在を知った。教義を破って結婚したとしても、苦しみは消えない。「本当にこれでよかったのか」「きっと地獄に行く」と2世は解けない呪縛にさいなまれるのだ。

もし脱会すれば親子関係は断絶する。信者ではない親族からは宗教を忌避して距離を置かれる。高橋さんは2世たちのこんな境遇を「宗教虐待」と訴える。

賛同する署名者の数は今月22日時点で6万3千人を超えた。目標人数は7万5千人。署名は関係省庁に提出し、児童虐待防止法など現行法を活用した救済のほか、宗教団体を対象にした新たな規制法の整備にもつなげていきたいという。「親の『信教の自由』の名のもとに子の人権が踏みにじられている。関係機関は門前払いをせずに、その事実に向き合ってほしい」

専門家「児童虐待に含めるべき」

2世信者が自らの境遇に疑問を持っても、脱会は容易ではない。親と対立して家を出ても親族とはすでに疎遠。交流サイト(SNS)上では現役信者からののしられ、他方、一般の人からは「信仰は自己責任」と突き放される。行政機関も介入に及び腰で、まさに四面楚歌(そか)の状況に追い込まれるのだ。

「テレビで脱会したと話している元信者はごく少数。誰にも相談できず、ひたすら耐えている2世はかなりの数に上る」。脱会相談などを受け付けている「全国統一教会(協会)被害者家族の会」の担当者はそう話す。

同会によると、2世は信者の親と教会との距離感から3つのグループに大別され、このうち脱会の可能性があるのは、家族とも教会とも距離を置いている人だけ。それも成人して、経済的に自立可能なケースにほぼ限定されるという。

カルトの問題に長く関わってきた立正大の西田公昭教授(社会心理学)は「児童相談所など行政は宗教に無関心。宗教団体側と訴訟になるリスクもおかしたくない。ネグレクト(育児放棄)や身体的虐待に比べて対応に腰が重くなる」と2世問題の根深さを指摘。その上で「児童虐待の概念に信仰に基づくこうした虐待を含め、臨床心理士や社会福祉士にも専門の教育を行うべきだ」と救済の必要性を訴えた。(五十嵐一)

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