主張

台風14号 事前放流の効用に学ぼう

水位が上昇した八ッ場ダム=令和元年10月14日、群馬県長野原町(本社ヘリから、恵守乾撮影)
水位が上昇した八ッ場ダム=令和元年10月14日、群馬県長野原町(本社ヘリから、恵守乾撮影)

大型で猛烈な台風14号は鹿児島県に上陸し、列島をほぼ縦断して各地に大雨と強風被害の爪痕を残した。

上陸直前には中心気圧910ヘクトパスカルを記録し、気象庁の黒良龍太予報課長が「本でしか読んだことがないような記録的な台風」と評した14号は、西日本を中心に記録的な大雨を降らせた。

だが、「記録的な大災害」は避けることができた。その要因の一つに、ダムの「事前放流」の効用が挙げられる。

国土交通省によると、大雨に備えてあらかじめ放流し、ダムの貯水位を下げて容量を確保しておく「事前放流」を、19日正午までに19府県の123ダムで実施した。事前放流を本格的に導入した令和2年以降、1つの台風への対応としての最多を大幅に更新した。

これほど大規模な事前放流がなければ、大雨による水量をダムにためられず、下流域に集中して河川の氾濫による甚大な被害が生じた可能性がある。

ダムはもともと、水道水は厚生労働省、工業用水は経済産業省、農業用水は農林水産省と、用途ごとに所管が違う。

そうした縦割り行政の弊害を排し、治水のための事前放流を一元的に判断できるよう、当時の菅義偉官房長官が主導して国交省でガイドラインを定めた。

きっかけは、深刻な洪水被害があった元年の台風19号で、試験運用中の八ツ場ダム(群馬県長野原町)が7500万立方メートルの雨水をため、下流域の氾濫を防いだことだった。

ガイドラインによれば、予報確率が高い大雨の3日前から事前放流を判断できる。台風14号は列島の広範囲に大雨を降らすことが確実視されたため、これだけ大規模な事前放流が実施された。

海水温の上昇などによる台風の大型化、凶暴化が懸念される今、こうした省庁横断型の防災、治水対策の整備は急務である。事前放流本格導入の経緯を参考に、国土の強靱(きょうじん)化を図ってほしい。

気象庁にも一つ、注文がある。「命の危険が迫っている」「これまでに経験したことがないような大雨」といった警報の口上は大いに危機感をあおり避難を促したと評価するが、人は言葉に慣れる。「オオカミ少年」とならぬよう、もう一段の言葉の工夫を考慮してもらいたい。

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