美村里江のミゴコロ

嘆きの冷蔵庫

美村里江氏
美村里江氏

これまで大型の家電製品を処分したことがなかった。私以上に物持ちの良い夫と再婚し、夫の所持品の方が古かったので、私の愛用家電がそのまま2人の生活を支えた。

そんな暮らしで時が流れ、引っ越し中のひょんなことで冷蔵庫の背面が一部へこんだ。業者さんは大変丁寧に作業してくださり、プロとして完璧。避けようのない不慮の事故の部類だ。

へこんだのは冷凍庫の小さい引き出しの背面で、わが家には重要部分であった。水槽のペットの餌用冷凍庫としてフル稼働していたのだ。キビナゴ、イカ、エビ、貝類、釣った小魚のぶつ切りなど。

へこんでからおおよそ月に1度、「ウーン」と中年男性のうなり声のような異音が響き、以前にはない霜も付くようになった。また保冷ガスの関係か、匂いに敏感な者からクレームが。モンハナシャコは一度受け取った貝柱を、腕の中でぐるぐる検分し、悲しげにポイと投げ出す。せっかく餌付けに成功したウナギ(警察犬なみの嗅覚)も食べなくなってしまった。

慌てて無事な方の大きな冷凍引き出しへ餌類を移したが、半年後、その無事だった方も冷蔵庫が「ウーン」とうなるたび、徐々に冷やす力が衰えていった。そのうちうなることもなくなり、静かに、しかし確実に悪化していった。

ある日、解凍と冷凍を繰り返したらしいシーフードミックスが、完全に板状になっているのを発見。冷蔵庫がへこんでうなりだしてから実に1年。ついに家電量販店のネットショップをのぞいた。

ちょうど大規模なセール中で、サイズや価格をあれこれ比較して購入を決めた。住所や発送日の入力後、旧冷蔵庫に目をやりつつ「決定」ボタンをクリック。「注文完了」の画面が出た直後、「ブーン」と数カ月ぶりに大きくうなったので、笑ってしまった。

今まで粘ってくれたお礼を伝えつつ、中も外もピカピカに磨いて新品と引き換えた。トラックへの積み込み前、所在なく道路に直立し、春の日を浴びた背中(?)のへこみに思わずしんみり…。

しかし、新入り冷蔵庫はすごい。本体が熱くならない、セロリが1週間後もシャキシャキ、自動製氷の速さ、魚たちも餌の保存状態にご満悦!

10年ぶりの新機能にはしゃぐ私の耳に、先代冷蔵庫の不服げなうなり声が、何度も空耳のように響くのであった。「ウーン」

会員限定記事会員サービス詳細