スポーツ茶論

村上宗隆が存在すること 清水満

巨人戦の9回、55号本塁打を放ったヤクルト・村上宗隆=13日、神宮球場(長尾みなみ撮影)
巨人戦の9回、55号本塁打を放ったヤクルト・村上宗隆=13日、神宮球場(長尾みなみ撮影)

ヤクルト・村上宗隆が13日の巨人戦(神宮)で55号本塁打を放った。〝世界のキング〟王貞治さん(現ソフトバンクホークス球団会長)の記録に並んだ。1964年以来、58年ぶりの大記録である。

ホームランの魅力。王さんが以前こう話していた。

「一瞬で劣勢を挽回できる力を秘めている。そこが一番の醍醐味(だいごみ)でしょう。チームは勝つため、いろいろと策を講じる。バント、エンドラン、盗塁…。ホームランは一瞬で状況を変えられる」

村上が「一瞬」を演出した最高のシーンがある。7月31日の阪神戦(甲子園)。0―2で劣勢だった七回に35号ソロ、九回に同点36号。延長十一回2死一塁で左翼へ勝ち越しの37号2ラン。初の1試合3本塁打、全得点を挙げた後のインタビューでこう答えた。

「(本塁打は)あまり実感が湧かないというか。とにかく今日の試合を取れたことが良かった。(4番の座は)それぐらい責任を背負ってますし、そういう打順というのは自覚している」

本塁打の詳細を避けた。あるのはチーム勝利。〝フォア・ザ・チーム〟精神だった。

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こんなシーンがある。

7月2日のDeNA戦(神宮)、チケットを買って久しぶりにスタンドで観戦した。

延長十回1死満塁、塩見泰隆が三塁へ内野安打してサヨナラ勝ち。その瞬間、真っ先にベンチを飛び出したのは村上。両手にペットボトルを持ちヒーローにウオーターシャワーを浴びせ、はしゃいでいた。リーグ最速の優勝マジック53が点灯した試合だった。

こんなシーンも…。

9月11日のDeNA戦(横浜)である。1―0とリードした九回裏2死二塁。ソトが放った強烈な三塁ライナーをジャンプして好捕、派手なガッツポーズを見せた。自らがサヨナラホーマーを放ったかのように喜んだ。タコ(無安打)だったが、マジック11を再点灯させた日だった。

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いま、チームの中心にいつも村上がいる。

「ムネ(村上)は絶妙のタイミングで行く」

あるコーチが言った。味方がピンチになると最初にマウンドに向かうのは村上だ。父・公弥さんの「人生で大切なのは仲間、決して一人にはするな」と教えた。この〝間〟に投手たちは安堵(あんど)を感じ、力をもらうと聞いた。

ベンチで座るのは高津監督のすぐ側だ。2019年に1軍定着し、4番を任された19歳のときからそこが定位置である。すでにリーダーとしての存在が見えた。

座右の銘は「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」だと聞いた。新明解四字熟語辞典によると「将来の目的や成功のために長い間苦心、苦労を重ねること」とあった。

入団当初、長打力はあるが、体が硬かった。1年目を終えたオフ、ベテラン青木宣親の自主トレに参加し、教えを請うたヨガ式トレーニングで柔軟性を身に付けた。「めっちゃきついけど、ムネはずっとやり続けている」という青木の証言。日々の鍛錬を怠らない。

肉体が進化して5年目、本塁打量産が加速した。55号の歴史的快挙にファンは歓喜したが、その日の試合は負けた。

「ホームランを打つことは好きです。もっと打ちたいです。勝つために、ファンが喜んでくれるために…」

令和初の三冠王、日本記録60本塁打の更新も視野に入るが、村上の最優先事項はあくまでも2年連続の優勝。そういえば王さんが言っていた。「タイトルは、優勝の先についてくるもの」と。村上のプロ意識がレジェンドと重なった。

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