写真紀行・瀬戸内家族

日本の自然の多彩さ実感

9月に入り朝夕の風にようやく秋の涼しさを感じるようになった。今年の夏は、梅雨明けは6月下旬から7月下旬に訂正されたが、猛暑日が多く非常に長く感じられた。そこで今週は、ゆく夏を惜しみこの写真を選んでみた。広島と島根の県境にある軍原キャンプ場へ行った時の一枚だ。

さて、瀬戸内の海だけではなくこうした川や山間の地でも遊ぶ中で、改めて思ったことがある。それはこれほど多様な自然に囲まれた国は世界的にも珍しいのではないか、ということだ。

たとえば博物学者で知の巨人と称された南方熊楠は、日本の自然景観についてこう述べている。「風景は我が国の曼荼羅ならん。風景ほど実に人世に有用なるものは少なしと知るべし」。海外暮らしが長かった南方には、日本の自然がきっと曼荼羅のように多彩で奥深いものに見えていたのだろう。ぼくのささやかな旅を省みても、ヒマラヤの峰々やアラスカの原生林のような壮大さはないものの、日本の自然の懐の広さは格別だ。

そこで暮らしている幸せを子供らにどう伝えてゆけばいいだろう。瀬戸内で過ごした今夏の時間を振り返りつつ、これからその問いとじっくり向き合ってゆければと思っている。

小池英文(こいけ・ひでふみ) 写真家。東京生まれ。米国高校卒後、インドや瀬戸内等の作品を発表。広島・因島を中心に撮影した写真集「瀬戸内家族」(冬青社)を出版。ウェブサイト「http://www.koike.asia/」

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