鑑賞眼

「手拳」で開いた宝塚の新境地 宙組「HiGH&LOW」

バイクで街を疾走するコブラ(真風涼帆・左)とカナ(潤花)=宝塚大劇場(山田喜貴撮影)
バイクで街を疾走するコブラ(真風涼帆・左)とカナ(潤花)=宝塚大劇場(山田喜貴撮影)

拳と根性をぶつけ合う不良たちの青春物語が、対極ともいえる「清く正しく美しく」の宝塚歌劇の新たな扉を開いた。宝塚とLDH JAPANがコラボした宝塚大劇場(兵庫県宝塚市)で上演中の宙組ミュージカル「HiGH&LOW-THE PREQUEL-」(脚本・演出、野口幸作)。不良同士の抗争と宝塚ならではのロマンスを軸に、トップスターの真風涼帆(まかぜ・すずほ)と個性豊かなキャラクターを演じる宙組メンバーが、鼓動高鳴るパワフルで熱い舞台を作り上げている。

平成27年からテレビドラマや映画が公開されている「HiGH&LOW」は、5つのチームが拮抗(きっこう)する「SWORD(スウォード)地区」での覇権争いと友情を迫力満点のアクションシーンで見せる人気シリーズ。今回の宝塚版はその前日譚で、原作では岩田剛典が演じる「山王連合会」の総長、コブラが無口なキャラクターになった理由がかつての恋人との秘話にあったことが、オリジナルストーリーで明かされる。

コブラとしての貫禄を見せつけるトップスターの真風涼帆(中央)。敵対するチームのリーダーを演じる(右から)瑠風輝、芹香斗亜、桜木みなと、鷹翔千空=宝塚大劇場(山田喜貴撮影)
コブラとしての貫禄を見せつけるトップスターの真風涼帆(中央)。敵対するチームのリーダーを演じる(右から)瑠風輝、芹香斗亜、桜木みなと、鷹翔千空=宝塚大劇場(山田喜貴撮影)

舞台はSWORD誕生前夜。コブラ(真風)はあるパーティーで幼なじみのカナ(潤花(じゅんはな)=じゅん・はな)に再会する。「守るべきものができるとけんかが弱くなる」と女性を遠ざけてきたが、明るく見えるカナが告げた残酷な事実に心を揺さぶられ、悲恋の歯車が回り出す。

コブラはカナの願いをかなえようとバイクで街をめぐり、2人で遊園地を楽しんだり浴衣で夏祭りに出かけたり。甘酸っぱいデートシーンを真風とトップ娘役の潤が爽やかに描き出す。行く先々でライバルチームとぶつかるが、血気にはやらず、カナを守りながらの抑えたふるまいに真風らしい貫禄と包容力がにじむ。

浴衣姿で夏祭りを楽しむ2人。コブラ(真風涼帆・右)はカナ(潤花)にさわやかな笑顔を向ける=宝塚大劇場(山田喜貴撮影)
浴衣姿で夏祭りを楽しむ2人。コブラ(真風涼帆・右)はカナ(潤花)にさわやかな笑顔を向ける=宝塚大劇場(山田喜貴撮影)

他の4チームのリーダーは個性の展示会のようだ。女性を守る「White Rascals(ホワイト・ラスカルズ)」のROCKYは芹香斗亜(せりか・とあ)が丸いサングラスから眉間のしわをのぞかせ魅惑的に描く。手には赤いグローブと手錠、ステッキという奇抜ないでたちすら、どこかエレガントに見えるのは宝塚ならではだろう。

捨てられた人々が集まる無名街の守護神「RUDE BOYS」のスモーキーは桜木みなとが、はかなさの中に宿る強い信念を丁寧に表現している。復讐(ふくしゅう)に燃える「達磨(だるま)一家」の日向(瑠風輝=るかぜ・ひかる)や札付きのワルがそろう「鬼邪(おや)高校」の村山(鷹翔千空=たかと・ちあき)もむき出しの闘争心が舞台で躍動した。

5チームの壊滅をたくらむ組織「苦邪組(くじゃく)」に全員が結束して立ち向かうアクションシーンは圧巻だ。宝塚では珍しい素手での殴り合いを泥くさく見せる一方で、原作の楽曲を生かしたチームごとのテーマ曲とダンスを組み合わせた疾走感あふれる見せ場が次々に展開し飽きさせない。ダイレクトに押し寄せる爆発的なエネルギーの波動が生の舞台の醍醐味(だいごみ)を感じさせた。

LDH JAPANが手掛ける「HiGH&LOW」シリーズを企画プロデュースするEXILEのHIROさんは、「まさか宝塚とコラボできるとは夢にも思わなかったので光栄な気持ち」と喜ぶ。

宝塚版では、原作で使用されている人気の楽曲に生オーケストラでアレンジを加えている。初日前の舞台稽古を観劇したHIROさんは「宙組とHiGH&LOWの世界観がしっかりミックスされていた。すごく刺激をいただいた」とコラボの意義を語った。

後半の「Capricciosa!!-心のままに-」(作・演出、藤井大介)は一転して、イタリアのだて男にふんした真風の大人の色香を堪能できる華やかなショーとなっている。

イタリアを舞台にしたショーでは、真風涼帆(中央)が潤花(左)や芹香斗亜らと三色旗をイメージした色の衣装で盛り上げた=宝塚大劇場(山田喜貴撮影)
イタリアを舞台にしたショーでは、真風涼帆(中央)が潤花(左)や芹香斗亜らと三色旗をイメージした色の衣装で盛り上げた=宝塚大劇場(山田喜貴撮影)
ヴェネツィアの場面では、真風涼帆(右)と美女に扮した桜木みなとが妖艶なダンスで魅了した=宝塚大劇場(山田喜貴撮影)
ヴェネツィアの場面では、真風涼帆(右)と美女に扮した桜木みなとが妖艶なダンスで魅了した=宝塚大劇場(山田喜貴撮影)

26日まで。東京宝塚劇場は10月15日~11月20日。(田中佐和)

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