ザ・インタビュー

吸血鬼の女子高生の大冒険 万城目学著『あの子とQ』

「吸血鬼といえばこれ!という先行作品が小説ではあまりなくて、自由な感覚で書けました」と語る万城目学さん(飯田英男撮影)
「吸血鬼といえばこれ!という先行作品が小説ではあまりなくて、自由な感覚で書けました」と語る万城目学さん(飯田英男撮影)

「万城目ワールド」とも言われる奇想天外でユーモラスな世界観の物語で知られる著者。新刊は、人間社会に溶け込んだ女子高生の吸血鬼が活躍する物語だ。人間に近づくための儀式を軸に、恋と青春とアクション要素が満載の、唯一無二の吸血鬼ストーリーに仕上がった。

日本で暮らす、普通の女子高校生の嵐野弓子。実はその正体は吸血鬼。とはいえ人の血を吸うわけでもなく、親友のヨッちゃんと楽しい毎日を送っていた。しかしある日、「Q」と呼ばれるとげのある謎の化け物が現れる。人間に近づく儀式のために、Qは弓子が人の血を吸わないか、17歳の誕生日までの10日間、監視をするというのだが-。

「もともと別の企画のために作った話でした。女子高生ものでバディものというお題でしたが、10代の女の子の気持ちを書くのは難しい。でも、吸血鬼を主人公にして、人間とどう接したらいいのかといった悩みなら書けると思った」

太陽の下でも活動できたり、子供をつくることができたり、と本作の吸血鬼は弱点を克服しつつある存在。その進化の歴史も語られる。「ルーツや歴史的なものを入れて説得力を出したかった。ヨーロッパの吸血鬼が日本の吸血鬼とどうつながるかとか考えるのは楽しかったですね」

吸血鬼ものの基本ルールを知りたくて資料を読みこんだ。人気映画『トワイライト』シリーズや、魔界の家族が人間社会で暮らす、少女漫画の名作『ときめきトゥナイト』も参考にしたという。

取材や下調べに時間をかけるタイプだが、「調べていくうちに、資料が残っていなくて分からない部分が出てくる。そこを書くと、誰も本当かウソか分からないという効果があります。見極めるにはある程度手間をかけないと」と語る。

「脱・吸血鬼」という設定は新鮮だが、「人間社会に溶け込んでいる吸血鬼を描きたかった。そうなると、何かしら脱吸血鬼的なものがあったから今があるんだろうな、ということで思いつきました」。

高校生の明るいラブコメディーとして始まった物語は、ある事件をきっかけに一変。弓子は血への欲求に悩まされる。江戸時代に生まれた日本初の吸血鬼・佐久やQの抱えていた秘密などが絡まり、予想外の方向に物語は進んでいく。

鹿がしゃべりだす『鹿男あをによし』。鬼や式神が登場する『鴨川ホルモー』-。ちょっと不思議な設定も、親しみやすいキャラクターと世界観ですんなり受け入れられてしまう。さりげなくファンタジー要素が込められた作風が持ち味だが、「癖なんですよ。ストレートを投げようとしても絶対にカーブが掛かってしまうみたいな。日常の延長に不思議があって、それを説明しないっていう物語が好きなんです」。

続きが期待できるような形で幕を閉じた本作だが、「弓子がどう生きていくかをもう少し先まで書きたいな、とは思うんですよね。続編はまあ、『構想中です』くらいでお願いします」。

まきめ・まなぶ 昭和51年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。『鴨川ホルモー』(平成18年刊)でボイルドエッグズ新人賞を受けデビュー。主な著作に、『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』『ヒトコブラクダ層ぜっと』など。

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