万博跡地の「国際医療拠点構想」が難航、外国人医師参加に懐疑論も

大阪・関西万博の会場となる夢洲=7月、大阪市此花区(本社ヘリから、沢野貴信撮影)
大阪・関西万博の会場となる夢洲=7月、大阪市此花区(本社ヘリから、沢野貴信撮影)

2025年大阪・関西万博の会場となる人工島「夢洲(ゆめしま)」について万博開催後の跡地を国際医療拠点として活用する大阪府と大阪市の構想が、難航している。夢洲内で国家戦略特区の規制緩和を踏まえ、外国人医療従事者の参入のハードルを下げる案が浮上しているが、専門家から懐疑的な声が相次いでおり、着地点は見通せていない。

「外国人が英語で日本の医師免許を取得できるようにするなんてありえない。現場が混乱するし、全面的に反対だ」

今月2日、府市が開催した医師ら有識者による検討会議。メンバーの一人が強い口調でこう言った。

議論の俎上に上がっていたのが、医師・看護師国家試験に対する規制緩和だ。現行制度では、医療従事者は日本語の試験をパスしなければ、原則日本で医療行為ができず、外国人が医療に携わる上でのハードルとなっている。

府市は規制緩和で英語での受験も可能にすることで、外国人医師らの参加を促し外国人が安心して医療を受けられる体制を構築するとともに、著名な外国人医師らの招請によって医療水準を高める狙いだ。

ただ、これまでに2度開かれた専門家の検討会議は紛糾。「自国の医師がいると安心感があり、ニーズはあるのでは」といった前向きな声が一部ある一方、「専門性の高い試験を英語で誰がどう作るのか」、「著名なスーパードクターがわざわざ来るとは思えない」、「ネーティブの医療通訳で対応できる」といった反対意見が大勢を占めた。

さらに府市は、帰国後の外国人患者をフォローするためのオンライン診療の実施や国内未承認薬の処方なども規制緩和の対象として検討しているが、重大な副作用が起きた場合の責任の所在など課題はある。

府市は年内のスーパーシティの計画策定を前に、専門家の意見を踏まえ、国際医療に関する構想の方向性について取りまとめを行う方針。ただ、政府に求める規制緩和の目玉事業に対して実現を危ぶむ声が続出したため、軌道修正を含めて検討するとしている。

府の担当者は「専門家の会議ではさまざまな意見が出たため集約するのが難しく頭を悩ませている。現行案のまま進めるのか修正を加えるのかもう少し検討したい」と述べた。

言葉の壁、ネックに

夢洲の国際医療拠点構想で念頭にあるのが、外国人が治療や健康診断を目的に訪日する「医療観光(メディカルツーリズム)」だ。ポストコロナの観光戦略の一つとして期待され、地元経済の活性化や医療現場のレベル向上が見込めるが、日本では言葉の壁がネックとなっている。

医療観光では、高度な医療技術、安価な手術費や投薬費といった自国では難しい医療サービスを求めて患者が海外へ渡航する。渡航先には医療水準が高く、医療費が比較的安価なマレーシアやタイ、韓国などが選ばれ、外国語を話せるスタッフを雇うなど、受け入れを増やす取り組みを進めている。

日本政府も平成23年に「新成長戦略」の一環として健診や治療目的の在留資格を緩和する「医療滞在ビザ」を導入。ただ、経済産業省によると、23年の同ビザの発給件数は70件で、その後徐々に増加したものの、ピークの令和元年でも1653件と伸び悩み、コロナの影響で2年以降は600件台と低迷する。

その一因とされるのが、言葉の壁だ。厚生労働省は、医療機関向けに外国人患者の受け入れマニュアルを作成したり、医療コーディネーターや医療通訳を配置するための人件費に補助金を出したり後押ししているが、浸透はしていない。

府市の構想では、こうした課題を解消するための検討を進めるとともに、外国人が日本で医療を受けやすい体制整備の進展が期待される。

国際医療マネジメントに詳しい国際医療福祉大院の岡村世里奈准教授は、医療ツーリズムの普及には医療サービス以外に言語や文化への対応、価格交渉力、アクセスのしやすさなど総合的な競争力が必要とし、「日本の医療サービスは素晴らしいため地域の医療事情を踏まえながら、医療界と観光業界、行政が連携し対応力を効果的に強化すれば、コロナ後の観光戦略の一つとして大いに可能性を秘めている」と指摘。その上で府市の取り組みについて「海外や医療界以外の視点や最新の知見も取り入れ、大阪独自のモデルを構築してもらいたい」と期待を込めた。(吉国在)

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