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プライスレスなスポーツが生み出すプライス 上林功・追手門学院大准教授

追手門学院大学、上林功准教授(本人提供)
追手門学院大学、上林功准教授(本人提供)

スポーツにかかわる知人に「スポーツはお金に代えがたい」と話す人がいます。人々を興奮させ、楽しみを分かち合う仲間をつくり、地域を元気にする、お金で買えない価値となるプライスレスなスポーツの社会的インパクトは、国際大会での選手の活躍などで実感するところです。スポーツがかけがえのないものとされるのはビジネスを通じて動いているお金以上に、こうしたプライスレスな社会的インパクトがあるからだと考えます。近年、こうした社会的インパクトの価値を見える化する手法が確立され始めています。社会的投資収益率(SROI)と呼ばれるもので、投じた資源に対し、どれくらいの社会的インパクトが得られたかを算定し、投資効果を見える化したものです。

もともとは企業の社会貢献活動や行政の政策評価を行うための手法です。世の中には森林保全や環境保護など社会的インパクトのある活動を支援する企業は多くありますが、もうけにつながらないと不満を持つ株主や資本家も少なくありません。一方で、イメージのアップや広告効果など、巡り巡って自社の利益になるものの、効果が目に見えにくいこともあり、理解を得るのが難しい実態があります。そこで各事業が生み出す社会的インパクトについてロジックモデルを構築し、財務プロキシと呼ばれる換算プロセスを経て、投資収益率を定量化したものがSROIと言われます。

SROIは収益率で表現され、何倍かの倍率をもって評価されます。1・0で投資分が同額の収益につながったこと示し、1・0以上であれば投資以上の効果を得ることができたことになります。今春、大手コンサルティング会社「デロイトトーマツ」はFC今治を運営する「今治.夢スポーツ」の活動についてSROIを算出し、サッカークラブ事業、育成・普及事業、ホームタウン活動、アースランド・野外教育の4部門について、効果を公表しました。特にホームタウン活動についてはSROIが2・6と高く、事業として投じている予算規模に対して2・6倍もの社会的インパクトにつながっていることが明らかとなりました。

SROIはあくまで評価であり、ビジネスとして換金できるわけではありませんが、価値が見える化できたことで、これまでにない事業の仕組みも考えられ始めています。行政や自治体が取り入れ始めている成果連動型民間委託事業(PFS)では、事業成果に連動して委託料の最終支払額が決まる行政サービスの検討が行われています。これまでの民間委託事業の事業成果とは、事業の収益などを指していましたが、社会的インパクトを見える化することで、成果評価に組み込む考えです。こうした取り組みが進めば、収益に結びつけにくかったスポーツ振興事業も、プライスレスな価値も加えて評価に加え、事業継続につなげることもできそうです。もうける以上に社会に役に立つ事業が評価される未来が近づいているとも言えそうです。

上林功(うえばやし・いさお)1978年11月生まれ、神戸市出身。追手門学院大社会学部准教授、株式会社スポーツファシリティ研究所代表。設計事務所所属時に「兵庫県立尼崎スポーツの森水泳場」「広島市民球場(Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島)」などを担当。現在は神戸市や宇治市のスポーツ振興政策のほか複数の地域プロクラブチームのアドバイザーを務める。

新たな潮流が次々と生まれているスポーツビジネス界の話題を取り上げ、独自の視点で掘り下げます。

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