「ウォークネス」 現代米国によみがえった文化大革命
米国では近年、「ウォークネス(wokeness)」が大きなうねりとなっている。この「社会正義への目覚め」とでも訳すべき意識がリベラルの若い世代を中心に広がり、人種差別や性差別などの社会的不正を根絶するため、毛沢東時代の中国の「文化大革命」にも似た、米国社会のあり方を根本的に変革しようとする動きにつながっている。
ウォークな「社会正義の戦士」(social justice warrior)が、不正とみなす言論や活動を居丈高に糾弾するさまは、文化大革命の紅衛兵を思い起こさせる。反黒人差別運動「ブラック・ライブズ・マター」(BLM)はその中核に位置するといってもよい。しかも、こうした動きは単なる運動の枠を超え、米国人の歴史認識にも大きな影響を与え始めた。どの社会にも存在する負の側面を指摘するというレベルを超え、自国の歴史を全体として否定的にみる米国版「自虐史観」とも言えるまでに発展し、言論界のみならず公教育の場にも広がっているのだ。
この流れを決定づけたのが、2019年8月18日付『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』(米紙ニューヨーク・タイムズ日曜版別冊)で黒人ジャーナリスト、ニコル・ハナ・ジョーンズ氏が立ち上げた「1619プロジェクト」である。米国史の原点は、英国の清教徒が北米大陸に移住し、自由と平等を求めて独立したことではなく、最初のアフリカ人奴隷が到着した1619年だという歴史観に基づく一大プロジェクトである。