北朝鮮元工作員の金賢姫(キム・ヒョンヒ)氏にとって、初の日朝首脳会談が開かれた2002年以降は苦難が続く20年間だった。韓国の左派政権下では大韓航空機爆破事件の〝偽〟実行犯だと糾弾された。そうした中でも日本人拉致被害者家族との心の交流もあった。だが、拉致問題が一向に解決しないまま、大切な3人との死別も経験した。
「以前お会いしたとき、『次回は4人で会いましょう』と約束したのに、かなわなくなってしまいました。申し訳なく思います」
金氏へのインタビューの最中、拉致被害者の田口八重子さんの長男、飯塚耕一郎さん(45)から預かったメッセージを伝えると金氏は目を赤くした。「耕一郎さんには韓国でのお母さんの役割をしてあげたいのに、それもよくできない」と声を詰まらせた。