山梨県が「スポーツで稼げる県」への取り組みを本格的化させている。将来のオリンピアン発掘に向け、挑戦したことない競技での資質を見いだす目的で小学5年生に限定した体力測定会を実施。一方で10月には通常は走行不可の県保有林道を使った希少なサイクリングイベントも開く。世界レベルのアスリート育成と同時に、楽しみながら地域の魅力を再確認し発信するという異なるアプローチで、スポーツをてこに地域や経済の活性化を図る戦略だ。
30メートル走や反復横跳び
「所属するサッカーチームではフォワード。でも他に向くスポーツがあるのならと思って参加した」
中央市から参加した男子はそう話し、ホッケーへの興味を示していた。
8月6日、甲府市の小瀬スポーツ公園の武道館アリーナに県内の小学5年生の男女60人が集まった。「甲斐人(かいしん)の一撃」と名付けられた将来のオリンピアン発掘のための最初の一歩の取り組みだ。
小学生らは身長や体重などの測定に続き、走力をみる30メートル走、瞬発力評価の立ち幅跳び、敏捷(びんしょう)性測定の反復横跳び、全身のパワーを測るための重さ1キロのメディシンボール投げと、次々に体力の測定に挑んだ。
〝原石〟探し
体力測定会の様子を真剣に見ているのは、カヌー、ホッケー、レスリング、ウエートリフティングといった競技の指導者だ。
ホッケーの指導者は「走力と敏捷性がポイント」と、30メートル走、反復横跳びに注目する。「サッカーなどと違って、背は低くても構わない競技だ。素早い動きが重要だ」と説明する。腕力よりも瞬発力が肝となるウエートリフティングの指導者は、立ち幅跳びにくぎ付けとなるなど、〝原石〟探しに真剣だ。
県の渡辺一秀スポーツ振興課長は「9歳から12歳はゴールデンエイジと呼ばれ、運動能力が向上するとされる。各スポーツの指導者に、世界を狙えるかを見てもらい、マッチングさせたい」と、小学5年生を対象にした理由を説明する。
今回の測定で20人を選考し、今後、教室や合宿でホッケーやレスリングなど、ほぼ小学生では未経験の競技を体験してもらう。合宿には、県出身のオリンピアンが加わり、適性のある競技を見つけると同時に、育成の方向を探っていく。
ビジネスの資源
一方で、県は4月にスポーツをビジネス資源ととらえ、経済の発展につなげるための地域スポーツコミッション組織「やまなしスポーツエンジン」を発足させた。
具体化第1弾が10月16日に南アルプス市の県営林道南アルプス線の夜叉神(やしゃじん)から広河原間を使うサイクルイベント。このコースは、夏山シーズンはマイカー規制、それ以外の時期は閉鎖され、通常はサイクリングできないが、雄大な景色楽しめる希少なコースだ。
当日は、自転車専門家や観光事業者、インフルエンサーら100人程度の招待者が、タイムを競わず走る予定だ。「めったに走れないコース利用で、プレミアム感があり、首都圏の自転車愛好家に訴求したい」(スポーツ振興課)という。今回はテスト的な開催だが、来年からの本格的に実施していく。
山梨県には富士山や富士五湖、南アルプスなど魅力ある自然が数多くあり、首都圏からのアクセスも良く、アウトドアスポーツの適地だ。県は、自然とスポーツを組み合わせた誘客はまだまだ伸ばせるとみている。
発足させたスポーツエンジンを核に、スタンドアップパドルボード(SUP)やアウトドアサウナなど、新たなアクティビティーの開発や定着化を図る。今年度は約4千万円の県の補助金がベースだが、将来的には、スポーツ活動を通じて収益を生み出し、自立運営できる組織にしていく計画だ。(平尾孝)