北川信行の蹴球ノート

カリスマ指導者との対話㊤ラガーマンでは試合に勝てない

興國高校サッカー部の内野智章監督。多くのプロ選手を育て、高校サッカー界のカリスマ指導者として知られる=大阪市天王寺区の興國高校(南雲都撮影)
興國高校サッカー部の内野智章監督。多くのプロ選手を育て、高校サッカー界のカリスマ指導者として知られる=大阪市天王寺区の興國高校(南雲都撮影)

毎年のようにプロ選手を輩出し、高校サッカー界屈指のカリスマ指導者として知られる興國高校サッカー部の内野智章監督(43)へのインタビュー。12~14日の夕刊紙面での連載「一聞百見」用に時間をいただいたのだが、話が盛り上がり、インタビュー時間はいつの間にか2時間近くに及んだ。せっかくなので、紙面に掲載できなかった部分を「蹴球ノート」で複数回に分けて「カリスマ指導者との対話」として紹介する。

第1回のテーマは「技術とまじめさが、日本が世界と戦う武器になる」。インタビューを行ったのは、6日の「蹴球ノート」で詳報した、セレッソ大阪のアカデミーがクラブユース選手権大会で3冠となった日。興味深いその話題から話がふくらんでいった。

「全員がスーパーサイヤ人」「誰も見たことがない選手」…夏3冠セレッソアカデミーの「野望」

大人になってインテンシティーしか残らない

インタビューに応じる内野智章監督。関西はタレントが豊富だという=大阪市天王寺区の興國高校(南雲都撮影)
インタビューに応じる内野智章監督。関西はタレントが豊富だという=大阪市天王寺区の興國高校(南雲都撮影)

--セレッソのアカデミーがクラブユース3冠。史上初の快挙です

内野「やっぱり大阪ってすごくいい選手がいっぱいいてると思うんです。大阪に限らず関西が。ガンバ(アカデミー)最強時代ってありましたよね。スーパーな子たちが集まって、ものすごいテクニカルなサッカーをやっていました」

--(大阪市南部の)阿倍野区出身の橋本英郎選手が(北摂を拠点とする)ガンバのアカデミーに入っていた時代ですよね

内野「宮本恒靖さんに始まり、稲本潤一とか新井場徹もそうですし、家長昭博君、宇佐美貴史君、堂安律君。名だたる選手が関西という土壌からいっぱい育っていたわけです。セレッソからも南野拓実君、山口蛍君、扇原貴宏君、杉本健勇君らが出ましたが、どっちもちょっと最近元気がなくなっていました。そんな中で日本のサッカー界ではハードワークとか戦うとか、ハリルホジッチさんが(日本代表監督に)来られてからは(1対1の強さを表す)デュエルとかが重要視されるようになりました」

--選手がアスリート化したということですね

内野「その流れが一番ダイレクトに出てくるのがJクラブです。日本のユースチームが結構、そういう方向に針が振れていた時代があって、その影響もあるのかもしれませんが、その時代に家長君とか、宇佐美君のような選手が関西から出なくなっていました」

--エアポケットみたいなイメージでしょうか

内野「そうですね。日本のトップの子たちの針が(アスリート化に)振れ過ぎると結局、大人になったときにインテンシティー(プレー強度の高さ)しか残らないんですよ。だから、どうなのかなっていうのを高体連の先生たちが言っている時代がありました。そうしたら風間八宏さんがセレッソに来て、デュエルとかハードワークの路線とは真逆のことをされている。関西人のノリとか元々持っているセンスとか、テクニックのところがフォーカスされるようになった。技術にこだわるサッカーの中で、セレッソじゃないですけど、花をもう一度咲かせ始めたというか…」

新しいジャパンズウエーを出していく

指導論について自身の考えを語る内野智章監督=大阪市天王寺区の興國高校(南雲都撮影)
指導論について自身の考えを語る内野智章監督=大阪市天王寺区の興國高校(南雲都撮影)

--今回のセレッソ三冠で、針がテクニカルに再び振れるかもしれませんね

内野「いやあ、でもね。ああいうサッカーをするのは、かなりのメソッドを持っていて、かつ突き詰められるメンタルがないと。結果が出なくても、風間さんはぶれないじゃないですか。多くの指導者は結果が出ないと自分が食いっぱぐれるっていうのもあるから、理想と現実のはざまで戦う人が多いですよね。特にJリーグのアカデミーだと1年契約、2年契約の指導者が多いので、フロントとか上の部分がまず針を振れてくれないと、指導者単体で振らすのは難しいと思うんですよね。セレッソは風間さんが監督じゃない立場のところ(技術委員長)に入って、みんなで同じメソッドをやろうとしている。関西っていう土地柄が多分ああいうことには一番合う。元々タレントが豊富な土地柄ですし」

--U-18、U-15と年齢も違えば、指導者も異なる。合わせるのは難しいのでは

内野「メソッドが確立されているから、試合でするサッカーは多少違いがあっても、技術を高めるトレーニングはある程度共通しています。岡田武史さんがFC今治でしていることもそうですが、最初にメソッドがあって…。それを統一することで、要はベクトルの向きがそろいますよね。やるべきことも統一されてくると、一本の幹ができます。いろんな指導者がいて、育成では毎年選手が変わるので、枝から先はいろんな花が咲いていいと思うんです。ここ最近の日本サッカーの幹はハードワーク、フィジカル、デュエルに振れていました。それを風間さんがセレッソで戻してくれた。

ただ、これでみんながなびくかというと、メソッドを持たない人たちはまねしてもなかなか難しいと思います。でも、育成年代では技術があってこそのデュエルでしょう。だから、ラガーマンを連れてきてデュエルを強化しても試合には勝てない。あくまでもサッカー選手としての特殊な要素を持った上でデュエルをしないといけない。風間さんがしていることが全ていいとか悪いとかという話ではなく、今回のセレッソの結果が原点に戻るきっかけとなり、パラダイム転換じゃないですけど、新しいジャパンズウエーが出てきたらいいと思います」

--風間さんがセレッソで取り組んでいることと、内野さんが興國高校でしていることの親和性は高いように思います

内野「おこがましい話ですけど。ただ、やっぱり最初に技術。技術のある人が、どれだけフィジカルをつけていくかっていうことだと思うんです。学校長のおかげで(サッカー部の海外研修旅行で)スペインに長年行かせてもらって感じた部分で、どうしても人種の壁は越えられない。足の長さとか背の高さとか、筋肉の質とか…。日本人が世界と戦う上で何を武器にしないといけないのかっていうところを、世界に出ていくことで知ることができた部分があります」

勤勉性、ハードワーク+テクニック

練習を見守る興国高校サッカー部の内野智章監督=大阪市天王寺区の興國高校(南雲都撮影)
練習を見守る興国高校サッカー部の内野智章監督=大阪市天王寺区の興國高校(南雲都撮影)

--部員たちをスペインに引率し、対外試合を行う中で感じたことですね

内野「選手たちもそこで感じるものがすごくたくさんありました。こういうことなんやでっていうのを事前に伝えているんですけど、体感していないから…。火星ってこんなんやでって聞かされて、二酸化炭素がこうで、太陽熱はこうでって、イメージはできるけど、いざ行ってみたら、こんなとこかって。そういう話じゃないですか。想像力と知識でイメージはつくけど、行ってみたらこんな大変な星だったと。僕は行ったことはないですけどね」

--行った経験のある人はいないでしょう

内野「まだゼロです。だけど、そんな感じです。知識はあるけど、体感すると全然違うというか…。スペインはいろんな人がいるんですよね。そういうのを経験したときに、日本人として逆に、彼らがまねできないこととか、彼らにないものが何なのかという考えに行きつくんですよ。いや応なしに。その中で勝負していかないといけない部分は勤勉性であり、ハードワークですよね。勤勉性とハードワークは似たような言葉です。プラスはテクニックの部分。このテクニックは、ブラジルなどでの遊びの要素が混ざったテクニックではありません。言葉は悪いですけど、楽しくない練習でもまじめにずっと反復できるのが日本人の強みだと思うので、そういう部分のテクニックです。

例えばスペインで指導された日本人の方としゃべっても『スペイン人は飽きちゃう』って言うんですよね。だから毎日メニューを工夫しなきゃいけない。日本人がしているドリルトレーニングなんてしないわけです。でも日本人って1年間それができる民族。これは絶対的な強みです。まじめさは世界と戦える要素だと思います。海外の選手が飽きちゃうトレーニングでも、日本人はできる。そこに僕ら指導者はおんぶにだっこです。面白くないけど、基礎的なことを徹底的にして、風間さんが言っているように止めて、蹴る技術を高めていく。ちゃんと話したらまじめに全部ハードワークしてくれるから、走らせなくても多分自分たちでやってくれるんですよ。

海外のチームと試合をしてて面白いのは、僕らがボールを回していると相手チームの選手が『もう取れねー』『もうやだ』『もうやんない』みたいなことをベンチに言っちゃうんですよ。ボールを取る方法を教えてくれないと、俺たちもうこんなに無駄に走っていられないよみたいな…。リアルにけんかが始まるんですよ。本当に。通訳の人に『何言ってんの?』って尋ねたら『興國高校のボールが取られへんから、怒ってます』って。怒った選手がベンチに向かって何とかしろよって…。だけど日本人なら取れなくても、頑張ってくれる。だから、走ることとかももちろん必要ですが、それよりもまずしっかり技術を高め、論理的に説明してハードワークのところはトレーニング抜きで、試合の中でやってもらうのがいいのかもしれません」

柔道も体操も世界の頂点に立った

テクニックを習得する大切さを熱く語る内野智章監督=大阪市天王寺区の興國高校(南雲都撮影)
テクニックを習得する大切さを熱く語る内野智章監督=大阪市天王寺区の興國高校(南雲都撮影)

--興國高校で取り入れているボールコーディネーションの練習にも結びつく話だと思います

内野「そうです。その技術と運動量ときまじめさ…。僕が言っているのは、日本人の足の短さをどう生かすかということ。やっぱり海外に行くと、相手の足は長いので。相手の動きはどうしてものそのそしている。キリンじゃないですが…。それに比べて、日本人は小動物。よく言えばアジリティー、敏捷(びんしょう)性、俊敏性です。関西人チックに言うと、足が短い。これは売りだと思います。メッシの足は短くないですけど、スペインで活躍しているスター選手って意外と小柄な選手が多い。マラドーナもそうでしたよね。敏捷性のある選手に対し、やっぱりスペインの選手は弱いんですよ。だからその辺を徹底的に磨いていくことによって、世界で戦えるんじゃないかって思うんです。そういう技術をしっかり身につけ、プロになったら本腰を入れて体をつくればいいんです。

だって日本柔道は世界と戦えるじゃないですか。体操もすごく筋肉を使うけど、世界でチャンピオンじゃないですか。と考えると、本気で鍛えれば、世界と戦えるフィジカルは大人になってからでもつくれると思うんです。日本人の勤勉性を生かし、これやんなきゃ駄目だって言ったら、やると思うんですね。だけど、技術は若いうちにつけておかないと身につかない。日本のサッカーを良くしようと思うと、サッカー好きなおじいさん、おばあさんを増やさないことには、サッカー人口も増えないし、サポートする人が少ないままだし、スポンサーも動かない。見ても面白い、やってても面白いことをしないといけません。だけど日本は耐え忍ぶ、我慢、忍耐とかになっちゃう。武士道精神は日本の文化で、僕は大好きなんですけど、それを残しつつもサッカーという楽しいものを体感し、見て面白いと思える環境をつくっていかないとダメだなと思っています。テクニックがあれば、何歳になってもサッカーを楽しめるでしょう」

--確かに、50歳でも70歳でも楽しめるかもしれません。

内野「体を鍛えてね、ガンガン走ってね、バンバンぶつかって…。そういうサッカーを50歳でしたら、もう(骨が)折れちゃうじゃないですか。シニアのサッカーでバンバンにやったら、救急車を何台呼ぶかっていう話になるけど、テクニックは神経系だから、一生落ちないんですよね」

--70歳でまたぎフェイントとかできたら、かっこいいですよね

内野「セルジオ越後さんは何歳になってもうまいし、釜本邦茂さんは何歳になっても狙ったところにボールが蹴れる。技術って落ちないじゃないですか」

--そうした考えに基づいて、興国高校ではウエートトレーニングをあまりしていない

内野「プロとかを目指す子たちは、高校3年生になったらやらせるんですけどね。そうじゃない子たちはずっとサッカーが好きで、プロになった子たちを応援する立場になってもらわないことには、日本サッカーは良くならないと思っています」

--多くのJリーガーを輩出していますし、大学でプレーする選手も多い。しかし、その他の部員にもずっとサッカーに関わっていてもらいたい

内野「(バルセロナの本拠地の)カンプノウに行ったときのことです。古いスタジアムなので、結構階段が多いんですよ。で、階段をおばあちゃんがつえをついて上がっていくわけですよ。多分80歳前後。そのおばあちゃんがメッシのユニホームを着てるんです。日本に久保建英君とか、Jリーグでいったら家長君のユニホームを着ている、つえをついた80歳のおばあちゃんが何人いてますかっていう話です。そこがサッカー文化の差だと思うんです。だから、プロになれなくても、孫にリフティングの技を見せられるぐらいの選手を育てるのが理想ですね。セルジオ越後さんみたいな人を何人育てるかっていうことが、日本サッカーにとって大事なんだろうなと思うんですね」

うちの・ともあき 1979年、大阪府堺市出身。和歌山・初芝橋本高から高知大学を経て当時、日本フットボールリーグに所属していた愛媛FCに加入。退団後、大阪に戻り、関西社会人リーグの奈良・高田FCでプレー。2005年に興國高の非常勤講師となり、翌年から体育教員、サッカー部監督に就任した。同校はこの10年間で約30人のJリーガーを輩出している。著書に「興國高校式Jリーガー育成メソッド」(竹書房)

㊥「かき集めのチーム、時間との勝負」に進む

㊦「老夫婦が一緒に観戦する文化を」に進む

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