井崎脩五郎のおもしろ競馬学

「消えたスクリーン」の偶然

6月25日の阪神第4レースで1着に入ったキングロコマイカイ(左)と2着のエルゲルージ=阪神競馬場(薩摩嘉克撮影)
6月25日の阪神第4レースで1着に入ったキングロコマイカイ(左)と2着のエルゲルージ=阪神競馬場(薩摩嘉克撮影)

「映画は映画館でっていうけど、無理よねえ」

「無理だなあ。とにかくオシッコが近くて」

「そうなのよ。2時間なんて、とても無理」

われわれ団塊世代の、クラス会での会話。

新型コロナウイルス禍で外出しなくなり、歩かないと足の筋肉が細ってくるから、筋肉が持っている保水機能も弱ってきて、小水をためておくことができず、それでオシッコが近くなるんだよと、わがクラスただ一人の医者が言う。そうなのかと、全員で納得してしまった。

考えてみれば、映画『男はつらいよ』のシリーズが、ほとんど1時間半前後の尺だったのも、高齢者の頻尿を考えてのものだったのかもなあと、今になって思う。

われわれ高齢者の足が向かないせいか、名画座が次々と閉じられてゆく。東京・神楽坂のギンレイホールも11月に閉館だというし、それより先、岩波ホールは7月に閉館になってしまった。

岩波ホールでは、1940年にソビエトで製作された『騎手物語』(ボリス・バルネット監督)を見た思い出がある。世の中にこんなに立派な馬がいるのかと、驚くばかりのトロッター種が登場し、老騎手を乗せてコースを疾走する。

たしか、老騎手がこっそりその立派な馬を持ち出すシーンが、共同農場の規則を破っていると当局にとがめられ、第二次大戦終了後まで公開が不可だったと、パンフレットで読んだ記憶がある。

6月25日(土)、岩波ホールがまもなく閉館になるという記事を読みつつ競馬場に着くと、折しも阪神第4レースのスタートが切られたところで、その結果は鮮烈なものだった。

1着 ングロコマイカイ

2着 ルゲルージ

3着 イクーン

4着 スクリーンアピール

馬名の太字部分をごらんいただきたい。「消えたスクリーン」。不思議なことが起きるよなあ。(競馬コラムニスト)

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