「映画は映画館でっていうけど、無理よねえ」
「無理だなあ。とにかくオシッコが近くて」
「そうなのよ。2時間なんて、とても無理」
われわれ団塊世代の、クラス会での会話。
新型コロナウイルス禍で外出しなくなり、歩かないと足の筋肉が細ってくるから、筋肉が持っている保水機能も弱ってきて、小水をためておくことができず、それでオシッコが近くなるんだよと、わがクラスただ一人の医者が言う。そうなのかと、全員で納得してしまった。
考えてみれば、映画『男はつらいよ』のシリーズが、ほとんど1時間半前後の尺だったのも、高齢者の頻尿を考えてのものだったのかもなあと、今になって思う。
われわれ高齢者の足が向かないせいか、名画座が次々と閉じられてゆく。東京・神楽坂のギンレイホールも11月に閉館だというし、それより先、岩波ホールは7月に閉館になってしまった。
岩波ホールでは、1940年にソビエトで製作された『騎手物語』(ボリス・バルネット監督)を見た思い出がある。世の中にこんなに立派な馬がいるのかと、驚くばかりのトロッター種が登場し、老騎手を乗せてコースを疾走する。
たしか、老騎手がこっそりその立派な馬を持ち出すシーンが、共同農場の規則を破っていると当局にとがめられ、第二次大戦終了後まで公開が不可だったと、パンフレットで読んだ記憶がある。
6月25日(土)、岩波ホールがまもなく閉館になるという記事を読みつつ競馬場に着くと、折しも阪神第4レースのスタートが切られたところで、その結果は鮮烈なものだった。
1着 キングロコマイカイ
2着 エルゲルージ
3着 タイクーン
4着 スクリーンアピール
馬名の太字部分をごらんいただきたい。「消えたスクリーン」。不思議なことが起きるよなあ。(競馬コラムニスト)