東京・西新宿。断面が三角形のユニークなデザインから「三角ビル」と呼ばれる新宿住友ビル。2020年6月、全面的なリノベーションを終え、低層部に最大二千人収容の全天候型イベントスペース「三角広場」が誕生した。なぜ建て替えではなく、あえてリノベーションという手法を選んだのか、なぜ「三角広場」が必要だったのか──。そこには地球と人を思う心があった。
原風景の記憶を継承し、革新性を加え、第2の竣工を迎える
居ながらにして改修
1974年に竣工した三角ビルは、高さ200メートルを超す超高層ビルの第一号として知られる。今回の大規模改修により、既存ビルを制振補強するとともに、内装や各種設備を大幅にアップデートした。住友不動産でこの「新宿住友ビル・リボーンプロジェクト」を担当した、ビル事業本部企画管理部チーフエンジニアの山田武仁氏は「新築にも負けないビルが出来上がった」と話す。
1990年代、高島準司前会長(当時社長)の発案で始まった改修計画を担当。ガラスの大屋根を架けた広場も、最初からの構想だ。超高層ビル、しかも稼働を継続しながらのリノベーションは国内に前例がない。
「当時にして『建て替える必要性がないものは、建て替えない』という当社の発想は、先見の明があり、今でいうSDGsに通じる」と山田氏は振り返る。断面が三角形になるビルの構造から、揺れに耐えやすく、法規上2つでよい避難ルートが3つ設けられているなど「元来の設計が先進的。リスペクトの念を持って、機能性をさらに向上させました」。
ビルのみならず、街の記憶にもリスペクトは厚い。赤レンガの淀橋浄水場の跡地に建った三角ビルには、屋外に赤レンガが用いられていた。今回、三角広場を囲む高さ25メートルの内壁は、赤レンガの記憶に加え、住友グループ発祥の地、別子銅山の「からみレンガ」の風合いを再現して構築。透かし積みを利用し、吸音や空調機能まで盛り込んでいる。
持続可能性への挑戦
リニューアルに伴い解体した今では採掘できない赤御影石などは廃棄せず、再使用することにこだわった。さらに床面は、一見大理石のようだが、実は焼成タイルでできており、石材であれば必ず生じる廃棄物をなくすなど、人にも地球にもやさしい工夫が随所に施されている。「すぐれたものを残しながら、その時代の最新のものへと更新していくことが真の持続可能性」というのが山田氏の考えだ。
今、日本の大都市では老朽化した高層ビルをどうするかが課題となっている。建築業界にもより地球環境と共存していくことが求められるなかで、同社のビル事業本部新宿事業所長の宮川享之氏は、既存のビルを生かし現代基準の機能を加えた三角ビルの大規模リニューアルを「持続可能なオフィスビルの実現に向け、新たな選択肢を国内外に示すことができたのではないか」と分析する。「世界では築100年以上の超高層ビルがリノベーションにより存続する例が少なくありません。日本でも今後、超高層建築物が半世紀を越えて使われる時代になるでしょう」
全天候型の「ひろば」が、人の流れをよび、賑わいを生む
建て替えず、賑わい再生
西新宿はビジネス街のイメージが強く、週末の人出の少なさも長年の課題だった。そこで「当社が事務局を務める新宿副都心エリア環境改善委員会では、2010年の設立以来、地元や行政とともに西新宿エリアの活性化に向けた議論を重ねてきました」と宮川氏。
山田氏も「三角ビルの足元にあった青空広場は、ビル風を受け、雨天時にはイベントが中止になるなど、十分に活用されてはいなかった。だから屋根と壁がある、全天候型の三角広場が必要だったのです」と振り返る。青空広場を屋内化することには規制が多く、実現まで20年余り紆余曲折する要因にもなった。しかし東日本大震災を機に公共空間のあり方について議論が進み、2016年に国家戦略特区の認定を受け、一気に道が開けたという。
2020年7月、三角広場と同時期に近隣の企業美術館や公園の交流施設などが完成。地上を歩く目線にアクティビティが続々と増え、超高層ビル街の街歩きがより楽しいものになってきた。まもなく2年経つ現在、若者や家族連れが行き交い、週末の人出も増えている。
三角広場では今、連日イベントが催され、若者の姿も多い。「天井高が25メートルと高く、密になりにくいことから『この場所ならば』と選ばれることも。全面ガラス張りで視認性が良く、空調完備の全天候型スペースなので、人を集める物販や飲食イベントでも喜んでいただけています」(宮川氏)
人々が逃げ込める空間
今年5月、都の防災会議で、首都直下地震の被害想定が10年ぶりに見直された。東日本大震災を機に各所で災害対策は進んできたものの、依然、453万人の帰宅困難者が発生するシナリオも想定されている。「東日本大震災では、都心部は夜間に気温が下がった中で、屋外で長時間過ごすことを強いられた人も多かった」と、山田氏と宮川氏は口をそろえる。
三角広場は新宿区との協定により、災害時には一時滞在場所として、2850人の帰宅困難者を受け入れる。道と地続きの場所で、屋根や壁で雨風を避けることができ、停電時でも非常用発電機を使い、共用空間やトイレの照明、空調を使用することが可能だ。3日分の水と食料、ブランケット、救急用具、マスクや消毒シートなど、防災用品を常時備蓄している。
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1970年代の新宿副都心。無機質にも見える超高層ビル群のなかにあって、当時の新宿住友ビルの足もとにある「ひろば」では、アイススケートリンク、動物園、クラシックカー・コレクションなど、数々のイベントが開催され、子どもたちの歓声があふれていた。約半世紀が経ち、全天候型に生まれ変わった三角広場は、再び活気の呼び水となろうとしている。
住友不動産とSDGs
社会生活の舞台となる、まちや建物。住友不動産は再開発やまちづくり、オフィスビル、マンション、戸建てまで幅広いプロジェクトを手掛けるなかで、防災機能強化や環境性能、利便性など、長年にわたり高水準の技術開発と建築を手掛けてきました。
SDGsの時代にあっても、「よりよい社会資産を創造し、それを後世に残していく」という基本使命のもと、先の時代を読みながら、持続可能性の社会実装を図っています。
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