モビリティー新時代

独VW、CEO交代でもEV化が進む理由 日本電動化研究所代表取締役・和田憲一郎

プラグインハイブリッド車のコンセプトモデル「ティグアンGTE」をPRするフォルクスワーゲンのヘルベルト・ディース取締役
プラグインハイブリッド車のコンセプトモデル「ティグアンGTE」をPRするフォルクスワーゲンのヘルベルト・ディース取締役

独フォルクスワーゲン(VW)の最高経営責任者(CEO)であるヘルベルト・ディース氏が1日付で退任した。理由は、急激に電気自動車(EV)化を進めたことで、雇用削減を懸念する従業員から反発や、グループのソフトウエア開発部門を集結させようとした混乱により、監査役会から退任の勧告を受けたようだ。

では、ディース氏が率いたVWの業績はどうだったのか。2021年12月期決算を見ると、半導体不足の中、前期に比べ販売台数は6%減の860万台であるが、売上高は12%増加し2502億ユーロ(約34兆2700億円)に達している。特別項目計上前の営業利益は2倍になり、200億ユーロと堅実な水準に戻している。EV販売も、2倍の45万台に達し、欧州ではシェア25%に上昇している。これだけみると、かなりの手腕だったとも言える。後任には子会社のポルシェCEOだったオリバー・ブルーメ氏が就いた。このため、一部にはエンジンを捨てないのではと見る向きもある。

しかし、筆者は2つの理由により、よりEV化に邁進(まいしん)すると思われる。一つは、22年6月末、欧州理事会により「35年に内燃機関車の新規販売禁止」が承認された。1年前に欧州委員会から提案され、欧州議会でも議論してきたが、今回決着した。この結果、VWのみならず他自動車メーカーも35年問題に集中せざるを得なくなった。

もう一つは、中国でのVWブランド力低下の恐れである。VWの地域別売上高では中国が約4割を占めているが、比亜迪(BYD)、テスラ、地場の新興EVメーカーが人気を博している。VWもEVに積極的に対応しないと、ブランド力が大きく毀(き)損(そん)し、またシェアも低下してしまう。このように考えると、時代の先端を見据えたCEOが退場してしまったようにも思える。

わだ・けんいちろう 新潟大工卒。平成元年三菱自動車入社。主に内装設計を担当し、17年に新世代電気自動車「i-MiEV(アイ・ミーブ)」プロジェクトマネージャーなどを歴任。25年3月退社。その後、27年6月に日本電動化研究所を設立し、現職。著書に『成功する新商品開発プロジェクトのすすめ方』(同文舘出版)がある。66歳。福井県出身。

会員限定記事会員サービス詳細