広い通りの両側にぽつぽつと商店が建つ。高いビルがない分、北海道の空が一層大きく感じられる。
札幌から電車で1時間ほど、道中部の砂川市の商店街。平日午後3時、モスグリーンの外壁が印象的な「いわた書店」のシャッターが下りる。これから約2時間は営業の「中休み」。静寂の店内で、書店主の岩田徹さん(70)がもう一つの仕事に取り掛かる。
全国からの注文が引きも切らず「奇跡の本屋」と称されるゆえん-。1万円でその人に合った本を詰め合わせる岩田さんの「一万円選書」の時間だ。
--何歳のときの自分が好きですか?
--これだけはしないと心に決めていることはありますか?
注文者が事前に書くアンケートの回答は「カルテ」と呼ばれる。岩田さんはその文章から相手の人生に思いをはせる。そして書棚の背表紙から10冊ほどを選び出し、今を生きる〝処方箋〟を届けるのだ。
この日、岩田さんが向き合っていたのは神奈川県在住の50代女性。カルテには3人の子供を授かった喜びとともに、子育てに対する夫の態度への不満もつづられていた。