【ロンドン=板東和正】英国の与党保守党の新党首に選出されたトラス外相はジョンソン首相の後任として、国内外の危機の渦中で船出することになる。ロシアによるウクライナ侵攻への対応や記録的なインフレ対策は急務で、対中国抑止のために日米と連携したインド太平洋戦略の継承も焦点。世界で影響力の拡大を目指す「グローバル・ブリテン」戦略を発展させられるかが問われる。
新首相がまず直面する課題は、ウクライナ侵攻への対処となる。ジョンソン政権は8月下旬、最新型無人機2千機を含む5400万ポンド(約87億円)相当の追加支援を発表。英国の軍事援助は米国に次ぐ2位の累計約23億ポンドに上り、英国は米国とともにウクライナ支援を牽引(けんいん)してきた。
トラス氏は党首選で「露軍をウクライナ全土から押し出さなければならない」と述べ、支援を拡大すると強調。「民主主義国家を弱体化させようとするロシアの企てを明らかにする」として、露内部の情報収集も強化する姿勢も示した。
ウクライナ侵攻の影響は国民生活を直撃している。エネルギーを中心に物価高騰が収まらず、7月のインフレ率は10%に達し、1982年以来約40年ぶりの高水準を記録。2022年後半にも景気後退入りする恐れが強まった。
「経済がさらに悪化すれば、ウクライナ支援の勢いが鈍る」(保守党党員)との懸念もくすぶりだしている。トラス氏は対策として年間300億ポンド規模の減税を公約に掲げた。法人税率引き上げを凍結する方針も示しているが、減税で消費が刺激されれば逆にインフレを招く恐れがある。
ジョンソン政権は昨春発表した新たな外交・安全保障政策指針に、中国の影響力拡大をにらんで、インド太平洋地域への関与強化を明記。日本との連携も重視してきた。だが、ウクライナ侵攻や経済低迷が長引けば、「インド太平洋に関与しようという英国の野心が抑制される可能性がある」(英王立国際問題研究所のデビッド・ローレンス特別研究員)とも分析される。
国内では中国に対する経済的依存からの脱却の可否も注目されている。通信機器や衣料品などの対中依存は高まっており、物品・サービスの中国からの年間輸入額(21年)はジョンソン氏が首相に就任した19年から150億ポンド以上増えた。
英メディアによると、トラス氏は中国を国家安全保障に対する「脅威」と定義し、対中依存脱却に注力する方針だ。中国を含めた権威主義国家への技術輸出を制限するほか、中国当局への利用者情報の流出が懸念される動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」など、中国系IT企業の取り締まりを強化する考えも示している。