欧米の「超スピード配達」ビジネスは、あまりにスピーディーな凋落を迎えつつある

アイゼンマンはスタートアップの失敗に関する講義を担当しており、21年には 『企業の失敗大全 スタートアップの成否を決める6つのパターン』という書籍を出版している。超スピード配達を手がける企業は、開業当初の収益と成長を維持できないというありがちな失敗のパターンに陥りやすいのだと、彼は言う。

最初のうちは簡単に、金をかけずに客の興味を引くことができる。素晴らしい特典がついた目新しいサービスなら、誰もが試したがるからだ。ところが、そうした顧客をつなぎ留め、新たな客を獲得するには、スタートアップとしての独自の価値を明確に示さなければならない。

超スピード配達のビジネスにとって、それはバンドエイドやバナナのような品物を自分で近所の店に買いに行く代わりに、いつも大急ぎで届けてもらいたい人、しかもそのために割増料金を払っても構わないという人を見つけ出すことを意味する。

新規顧客の伸びが衰え始めると、「新客獲得のためにやむを得ず1回の注文につき20ドル(約2,760円)分の食料品を無料にするといったサービスを始めるようになります」と、アイゼンマンは言う。そこから一気に財務状況は悪化する。経済の見通しが暗くインフレが高止まりしている昨今は、割高な新サービスを受け入れるよう消費者を説得するにはタイミングが悪いのだ。

数時間かそれ以上の時間をかけて食料品を配達するサービスでさえ、その利幅は極めて薄い。例えば、食料品のオンライン販売で100ドル(約13,800円)の品物を売る場合、そのうち約70ドル(約9,660円)が商品の卸売り原価だ。残りの30ドル(約4,140円)は、冷蔵や保管のための費用、商品を棚からピッキングして袋詰めする店員の賃金、配達コストなどの諸経費として消えてしまう。

コンサルティング大手マッキンゼー・アンド・カンパニーの最近の報告によると、北米の平均的な食料雑貨店では、店頭で買い物をする客からは売値の4%の利益が得られる。一方で、オンライン注文では1回ごとに13%の損失が生じているという。

Instacartのように、食料品会社と提携することで相手先の既存店舗のインフラや在庫を借用することで善戦してきた企業もある。とはいえ、そのInstacartも、いまだに利益を出すには至っていない。

消費者のニーズは確かにあるが……

食料品のオンライン販売は、過去2年間で需要が急増した。それは主に新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の影響で、店頭での買い物を避けようとする人が増えたことが原因である。マッキンゼーの調査によると、20年に食料品のオンライン注文件数は50%増加し、スピード配達の需要は41%増えたという。

「消費者のニーズは確かにあるのです」と、マッキンゼーのパートナーで報告書の執筆者のひとりであるビシュワ・チャンドラは言う。「問題は財務面をどう管理するか、ということなのです」

超スピード配達のスタートアップが業績を改善するには、“ダークストア”と呼ばれる商品保管用のマイクロ倉庫を活用する手もあるだろう。店内を歩き回って商品を集める従来のやり方よりも、素早くピッキングして袋詰めできるように設計された倉庫だ。

また、例えば1斤4ドル(約550円)のパンを6ドル(約830円)に値上げするなど、客側の負担を増やす方法もある。しかし、十分な数のダークストアを設置し、受注から15分以内に市内のどこへでも配達できるようにするには、さらに膨大な資金が必要だ。

すべてのダークストアの在庫を管理し、常に必要な商品を揃えておくことも難しい。「コスト効率の点では優れた方法ですが、十分な需要がなければ投資に見合う利益を得ることはできません」と、チャンドラは言う。

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