猫も人も幸せに暮らす島 一斉不妊手術から6年のいま

男木島の猫を管理する松本善樹さん。傍らにはTNRを受けた「ミーちゃん」=8月23日、高松市男木町
男木島の猫を管理する松本善樹さん。傍らにはTNRを受けた「ミーちゃん」=8月23日、高松市男木町

かつて住民より多数の猫が暮らす「猫の島」として全国から観光客が押し寄せた瀬戸内海の男木(おぎ)島(高松市)。島内の全猫(約140匹)への不妊手術から6年となる今年、猫は半数以下にまで減少した。一方で「劣悪だった」栄養状態は皆良好となり、人懐っこい猫目当ての観光客は今も絶えない。関係者は「猫も人も幸せに暮らす島」に向けて地道な活動を続けている。

高松港の北約8キロ先、瀬戸内海に浮かぶ男木島は面積1・34平方キロ、人口約150人の小さな島だ。

現在、島で暮らす猫は約60匹。全体を管理するのは12年前に瀬戸内国際芸術祭(瀬戸芸)を機に島を訪ね、翌年から「週末移住」を始めた大阪の元中学校教諭、松本善樹さん(62)だ。57歳で早期退職後は「完全移住」し、飲食や宿泊ができる休憩所「夕陽と猫の家」を営む。猫を通して知り合った全国の人々とともに約2年前、猫と人の共生を目指す「男木島さくら会」を設立した。

島に猫が増え始めたのは20年ほど前。有名な動物写真家の番組や本に登場したのを機に「猫の島」として全国的に有名になり、猫目当ての観光客が押し寄せるようになった。一方、猫の増加に伴い、住民は糞(ふん)尿による悪臭や、農作物を荒らされるなどの被害に悩まされ、苦情も増えた。

神社の境内でくつろぐ三毛猫。耳の切れ込みはTNRの印だ
神社の境内でくつろぐ三毛猫。耳の切れ込みはTNRの印だ

地元協議会は、野良猫を捕まえ(Trap)、不妊・去勢手術をし(Neuter)、元の場所に戻す(Return)「TNR活動」などに取り組むNPO法人「BONにゃん」(高松市)に相談。公益財団法人どうぶつ基金(兵庫県芦屋市)が主催して獣医師団を派遣し、手術、ワクチン、その他の獣医療費用を全額負担した「さくらねこ一斉TNR」によって平成28年、計142匹の猫の不妊手術を行った。

BONにゃんによると、当時の島の猫たちは「皆おなかをすかせて、栄養状態はかなり悪かった」。もともと、島民のほとんどは猫に無関心。2日間でほぼ全猫にTNRを施したが、その後「地域猫」として見守る仕組みも根付いていなかった。結局、BONにゃんが全国から募ったフードを毎週、本土から島へ運び、餌の手配をするなどして管理を続けてきたという。

松本さんが猫たちの管理を担うようになったのは、2年ほど前から。もともと猫に関心はなかったが、釣った魚をさばいていると猫が寄り付くようになり、すっかり〝猫派〟に。BONにゃんの活動を手伝ううちに管理を任されるようになったという。

坂道の真ん中で〝堂々と〟毛づくろいする黒猫
坂道の真ん中で〝堂々と〟毛づくろいする黒猫

猫は早朝や夕方の薄暗い時間帯に最も活発に動く。松本さんは毎朝早く「キャットロード」と名づけた猫たちの見守りルートを1時間半ほどかけて歩き、餌や水を補充し、健康状態を確認する。島民の反応は当初厳しかったが、2年目には「嫌なことを言う人はいなくなった」。毎日欠かさない取り組みに「うちにも餌を置いていいよ」と言ってくれる人も増えたという。

BONにゃんによると、TNRを実施した地域で猫の数は3年で半減し、その後1年ごとに減っていくという。6年前に142匹のTNRが行われた男木島で今60匹が暮らしている状況は「かなり良い状態」と指摘。平地が少ない島では車が一部しか通行できず事故のリスクが低いことや、栄養状態の改善で「猫たちが暮らしやすい環境になっているのでは」とみる。

毎日、定位置に食べ物と飲み水が補充され、不調が分かれば本土で医療を受けることもできる猫たちは毛並みも良く、人に甘えてくる。5回目の瀬戸芸が開催中の8月下旬、来島者には猫目当ての観光客も多かった。松本さんはこう言う。

「島民に大切にされ、観光客にも愛される。そんな猫たちが、人と幸せに暮らせる島であってほしい」

殺処分、全国で減少

一般社団法人「ペットフード協会」(東京)の昨年の調査では、室内飼いの猫の平均寿命は16・22歳。野良猫の場合は病気や交通事故などのリスクが高まり、寿命は4~5年とされるが、地域で適切に管理されれば、寿命は格段に伸びるとの指摘もある。

所有者のいない猫を捕まえ不妊手術を行い、元の場所に戻すTNRは、行政による殺処分の減少につながる活動として全国に広がっている。環境省によると、全国で殺処分された猫は平成22年度に約15万匹だったが、10年後の令和2年度は1万9705匹に減った。

手術の際は片方の耳先に桜の花びらのような切れ込みを入れる。未手術の猫と見分けるためで、手術済みの猫は「さくらねこ」と呼ばれている。TNR後は、地域でルールを定めて適切に管理したり、人に慣れさせて希望者に譲渡したりしている団体もある。

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