スポーツが未来を変える

「いのちの教育」が新たな気付き生む びわこ成蹊スポーツ大学 股村美里講師

びわこ成蹊スポーツ大学の股村美里講師(大学提供)
びわこ成蹊スポーツ大学の股村美里講師(大学提供)

思春期から10代後半のころに親しい人と死別したり、飼っていたペットが死んでしまったりする、つらくて悲しい経験をした人もいるでしょう。私たちは「いのちの体験」と呼んでいます。大切なのは、体験から得られたことを他の人たちと共有していくことです。共有することにより、抽象的な言い方ですが、実際には体験していない人も「いのちの大切さ」を再認識することができます。

いのちについて考えさせられる経験をしたときに、誰かと一緒に泣いたり、考えたりした子供の方が、自尊感情が高い傾向にあります。感情の共有という経験が、おそらく自分自身を大事にする感覚につながるのではないかと思います。

最近、長引く新型コロナウイルス感染症の影響で、自殺者数が増加しているとのニュースがありました。コロナ禍前と比べ、感情を容易に共有できなくなっているのが理由といえるかもしれません。失恋したときに慰められたり、挫折を味わったときに誰かと悩んだりする。「独りじゃない」と思える経験をすることで、自尊感情が高まるわけです。そういう経験が乏しくなっている気がします。

担当している「健康教育」とは、健康上望ましくない行動をやめ、望ましい行動に変えていくことです。どういうときに、人は好ましくない行動をしなくなるかということを、理論的に伝えています。簡単に言えば、行動変容によるメリットよりもデメリットが多いと、やめようとは思いませんよね。やめた方がメリットがあるとなれば、行動変容するわけです。

スポーツ系の大学ですので、高いレベルで競技をしているアスリート学生が多くいます。健康的な生活を送ることは、いい成績を残す上で大切でしょう。在学中だけではありません。体を動かしたり、食生活を改善したり、良質な睡眠を心がけたり…。健康に関する学びは続いていきます。

学生時代はホルモンの影響で、年齢的に眠気が強くなる時期です。しかし子供は大きくなるにつれ、就寝時刻が遅くなるとの調査結果があります。中学1年生と高校3年生では約2時間違います。そうすると、不安や抑鬱の感情を持つ割合も高くなります。一日4時間睡眠、6時間睡眠の学生はざらにいます。そういう生活を1週間続けるだけで、徹夜明けをしたようなだるさを感じるようになります。集中力や認知力が低下し、スポーツのパフォーマンスにも影響します。そうしたことも、学んでほしいと思います。

学習指導要領が改訂され、高校の授業で「精神疾患の予防と回復」を学ぶようになりました。精神疾患の患者の約75%が10代から20代に発症しています。新たな気付きは、たくさんあります。コロナ禍前は、生活が感染症に脅かされるとは誰も思っていませんでした。健康教育の分野は日々アップデートされています。「いのちの教育」にゴールはありません。

股村美里(またむらみさと)神奈川県出身。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は「健康教育」「学校保健」。2017年から、びわこ成蹊スポーツ大学講師。

スポーツによって未来がどう変わるのかをテーマに、びわこ成蹊スポーツ大学の教員らがリレー形式でコラムを執筆します。毎月第1金曜日予定。

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