政令指定都市に都道府県並みの権限と財源を持たせる「特別自治市」構想で、神奈川県と県内政令市の横浜、川崎、相模原の3市によるにらみ合いが続いている。構想実現へ向けた法制化を目指す3市に対し、県は「妥当ではない」と譲らず、議論の着地点は不透明なままだ。47都道府県で唯一、3つの政令市を抱えるという特殊事情がある神奈川。県と3市の攻防に注目が集まっている。
会談、平行線のまま
5月6日、横浜市役所。神奈川県と横浜、川崎、相模原の3市の4首長が特別自治市構想について会談し、意見を交わした。
川崎市の福田紀彦市長は「多様化する行政課題に対応するには、地域の実情やニーズを把握する基礎自治体優先の原則が大事。大都市にはその能力に見合った権限と財源が必要だ」と特別自治市の意義を強調した。
一方、黒岩祐治知事は「住民サービスの向上にはつながらず、新たな費用も必要だ。法制化は妥当ではない」と否定的な立場を主張した。
この日、議論は平行線のまま終了。「住民目線で課題解決に取り組む」と、4首長で継続的に協議することを合意したものの、今後の具体的な見通しは示さなかった。
他市町村の低下懸念
県は特別自治市構想について、一貫して否定的な立場をとってきた。
昨年6月、県は有識者6人による特別自治市構想に関する研究会を設置し、約半年かけて考え方を議論。とりまとめた報告書をもとに今年3月に「特別自治市構想に対する神奈川県の見解」を公表した。
県の見解では、政令市が特別自治市に移行した場合「(県の)財源不足から政令市以外の市町村で県の行政サービスの水準が落ちる」「災害対応など広域自治体として県が果たす『総合調整機能』にも支障が生じる」などデメリットを挙げた。
3市、啓発活動着々
こうした県の姿勢をよそに、政令市側も構想実現へ向けた市民向けの啓発活動に力を入れ、着々と足場固めを進めている。
川崎市は7月、動画「川崎市は特別市をめざします」を動画投稿サイト「ユーチューブ」の市公式チャンネルで公開。動画はダイジェスト版(約6分)、全編版(前編・後編各約15分)で、福田市長とタレントの田村淳さんの対談形式で特別自治市構想について解説している。また、専用の広報冊子も作成した。
横浜市は昨年10月に動画「『横浜特別自治市』~横浜にふさわしい都市のかたち~」(約10分)を制作。このほか市担当者による市民向け出前説明会を開催している。山中竹春市長が直接出向く出張説明会なども準備している。
相模原市も今後、掲示物などで特別自治市の法制化の意義を紹介するポスターなどで啓発活動に取り組む予定だ。
突破口になるか
県が特別自治市の法制化に否定的な姿勢をとり続ける中、政令3市長は議論前進への突破口を探り続けている。
3市長は7月27日に横浜市庁舎で共同記者会見を開催。県に対し、否定的な根拠となる数値の提示を求めたり、県と3市で合同調査・分析に取り組む提案を行うことを表明した。今後、県に正式に申し入れる予定だが、権限と財源を奪われる側の県がこれに応じ議論が進んでいくかどうかは見通せないのが現状だ。
県内全域での行政サービスの維持や総合調整機能を主張する県と、税配分を見直して財源の移譲を目指す3政令市。1対3の攻防から目が離せそうにない。(大島直之)