9月に結党10年を迎える日本維新の会は、国政政党同士が合流するなどして誕生した自民党や立憲民主党とは異なる出自を持つ。維新新代表の馬場伸幸(57)の言葉を借りれば「(地域政党である)大阪維新の会が産み落とした政党」だ。
大阪維新の旗印たる「一丁目一番地」は大阪都構想であり、政令指定都市を廃止する前例のない「改革」実現のため、法律を制定することが国政政党の維新の〝使命〟だった。
その都構想が2度にわたって住民投票で否決されたにもかかわらず、維新が存続しているのはなぜか。
「自民と対峙できる政党に」
前代表、松井一郎(58)の路線を継承する馬場は代表選で「自民をピリッとさせる」と何度も口にした。今月27日、新代表に選出された際も「自民と対峙(たいじ)できる政党に大きく育てたい」と訴えた。
根底には自民を脅かす保守系野党の不在という戦後日本の宿痾(しゅくあ)ともいえる課題がある。昨年の衆院選と今夏の参院選で維新が議席を増やしたのも政権与党と異なり、革新色が強い立民や共産党とも一線を引く「第三極」に期待した有権者が一定数いたことの証しだ。
維新が自民に代わる選択肢として、昨年5月に公表した馬場肝煎りの政権構想が「日本大改革プラン」。減税と規制改革を組み合わせ、経済成長と格差解消を実現するというのが理念だ。
ただ2回の国政選挙を経て浸透したとはいえず、馬場自身も「5分で話せる内容ではない」と認める。それでも政策の柱とする考えに変わりはない。維新が野党第一党、ひいては政権交代を目指すなら「改革」を核とした自民との差別化は避けられないが、旗印をめぐり党内は揺れている。
今夏の参院選に合わせ、「改革。そして成長。」と題して6項目の重点政策をまとめた有権者向けパンフレットの筆頭は「出産費用の実質無償化」。大阪府知事で今回、馬場から党ナンバー2の共同代表に指名された吉村洋文(47)の意向を反映したとされる。
地盤の大阪で実現した私立高校の授業料無償化とともに「将来世代への投資」として、若年層や女性にアピールできるとの思惑があった。ただ党内で十分に議論したわけではなかった。
ウクライナ危機などの国際情勢に照らし、外交・安全保障政策を軸に論戦を展開するつもりだった一部の議員は「あり得ない」と強く反発。結局、松井が自民との違いを打ち出せるとして吉村案を採用したが、事情を知る国会議員の一人は「選挙とはいえ有権者受けを優先し、国政でのスタンスを示すのが二の次になっていいのか」とこぼす。
強い憲法改正への思い
国政政党としての「国家観」を如実に表すのが、憲法に対する考え方だ。
維新は政策提言「維新八策2022」で、憲法改正案として教育無償化と統治機構改革、憲法裁判所の設置という従来の3項目に加え、憲法第9条への自衛隊明記と、他国による武力攻撃を念頭に置いた緊急事態条項の創設を掲げた。
自民出身の馬場は松井と並び、「党内きっての保守派」(維新衆院議員)と評される。政界入りして最初に秘書として仕えた元外相の中山太郎(98)は衆院憲法調査会(現憲法審査会)の初代会長であり、憲法改正の是非を問う国民投票の実施が持論だ。
中山の薫陶を受けた馬場も「DNAに組み込まれている」(維新衆院議員)というほど憲法改正への思いは強く、政策面の最優先事項に位置付けて代表選を戦った。
憲法や外交・安保といった国の根幹をなす政策分野は自民と似通うところが少なくない。馬場もその点は認めた上で「どちらかというとわれわれの方が現実的に国際情勢を見て積極的に提言している」と強調し、「もっと自民に働きかけて国民が安心できる安全保障体制に向けて議論していきたい」と意欲を示す。
維新は次期衆院選で野党第一党を奪取し、その10年後に政権交代を見据える。いかに維新の旗印を示しながら「飛躍」へとつなげるか。他党との駆け引きを含めた国政を熟知する馬場の手腕が試される。(敬称略)(北野裕子)