話の肖像画

女優・泉ピン子<22> 「おんなは度胸」で乗り切ったハードな現場

連続テレビ小説「おんなは度胸」では、ヒロインの老舗旅館のおかみを演じた
連続テレビ小説「おんなは度胸」では、ヒロインの老舗旅館のおかみを演じた

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《平成4年、NHK連続テレビ小説「おんなは度胸」のヒロインを演じる。原作・脚本は橋田寿賀子さんで、東京から関西の温泉旅館に嫁いできた女性が、義理の娘と、老舗旅館を大きくしていく物語だ。「渡る世間は鬼ばかり」と同じく、嫁ぎ先で女性陣にいじめられながら、耐えて尽くして、婚家の中心的存在になっていく》

橋田先生に「大阪に1年行ってくれ。この役を演じられるのは、あんたしかいない」と、初めて土下座されました。私は結婚していて夫は東京で医師をしています。大阪での撮影となると、単身赴任になります。先生も申し訳ないと思いつつ、決心して頼んだのでしょうね。週5日の大阪暮らしを受け入れました。

朝ドラの出演は昭和58年の「おしん」の母親役以来です。あの時はボロボロの衣装を着せられていましたが、今度は老舗旅館のおかみ役でヒロインなので、ポスター撮影では、きっと良い衣装が用意されているはずだと期待しました。

結果は、まさかの衣装無し。もう一人のヒロインで義理の娘役の桜井幸子さんと一緒に温泉につかって、見えている上半身は裸。お湯の中で、こちらを振り向いたところ、という風情でパシャリ。衣装関係で、私に良いところは回ってきません。

《最高視聴率は45・4%と大ヒットドラマとなった》

でも、私と橋田先生の間では「数字が取れなかったね」という認識でした。最高視聴率62・9%だった「おしん」と比べてしまっていました。でも、この作品で、私をいじめる小姑(こじゅうと)役の直ちゃん(藤山直美さん)がスターになっていったのは、うれしかったです。

本当に撮影が大変なドラマでした。朝5時くらいまで撮影していたこともあります。橋田先生の脚本にはいつも長ゼリフで苦しめられるうえに、この作品は普段よりテンポが3倍以上早く、中身が詰まっていて、とてもハード。大阪でのホテル生活は、外出する時間もなく、撮影後は部屋にこもってセリフを覚えるのに必死でした。

共演者はみな痩せていき、直ちゃんも「お父さんが死んでも痩せへんかったのに、このドラマの撮影で痩せたわ」と言っていました。そういえば、香川照之君も出演していましたね。

《このころ、新人をいじめていると報じられた》

なぜかと言いますとね、桜井さんの妹役の若い女優さんが、大学受験をしまして、春から東京の大学に通っていました。ヒロインの妹ということで、私と桜井さんに続く3番手の重要な役でしたが、通学のため撮影現場には4時間しかいません。午後2時に現場へ入り、6時には飛行機で東京へ帰っていきます。私たちは午前10時から撮影していますので、巻いてしまうと彼女待ちが発生します。しかも、この子はセリフを覚えてこない。NGを連発した挙げ句、泣いてしまい、スタッフも困り果て、また撮影が止まります。

だから、本人には「あなたがこの役を選んで、やりたいと思っているのなら、大学を休学したら?」と話をしました。ロケも終わっていて、脚本もできていたので、今さら違う女優には代えられません。だったら、本腰を入れて仕事をしてもらうしかない、と思いました。

大手芸能事務所の子でした。本当でしたら、NHKのプロデューサーが注意することなのでしょうが、何も動こうとはしないので私が言うことになりました。「朝ドラで3番手の役なんて、スターを目指している子なら、皆やりたがる役です。休学しても、大学は逃げませんよ」って。

そうしたら、若い子をいじめていると週刊誌に書かれてしまいました。私にそんな気持ちは全くなかったので、悲しかったです。その子のため、作品のためと思って言ったのですが…。もしかすると、私は作品をつくる一つのチームだと思う気持ちが強すぎるのかもしれません。(聞き手 三宅令)

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