12気筒は合理を超えたところにある 新型ベントレー・ベンテイガ・スピード試乗記

超高性能SUVであることを悟らせない

もっとも、筆者は前期型ベンテイガ・スピードに試乗していないこともあって、今回、新型ベンテイガ・スピードのステアリングを握り、限られた時間だったとはいえ、ただただ呆気にとられた。これはベンテイガの皮を着た怪物である。

5950ccW12気筒直噴ユニットは、ツイン・スクロール・ターボチャージャーを2基備えて、最高出力635psを5000rpmで、900Nmもの 最大トルクを1750〜4500rpmという広範囲で発揮する。車重は車検証の数値で2560kgもある。そうとう重い。しかも空気抵抗のいかにも大きそうなボディを、圧倒的なパワーとトルクによって最高速306km/h、0〜100km/h加速3.9秒という高性能を実現している。

ベンテイガV8の4.0リッターV8ツイン・ターボだって、最高出力550psと最大トルク770Nmを生み出し、十二分に速い。最高速290km/h、0〜100km/h加速4.5秒という俊足なのだ。

ちなみに、ポルシェ「911カレラ・カブリオレ」はそれぞれ291km/hと4.4秒である。ベンテイガ・スピードは、それを軽く凌駕する運動能力を備えている。

あまりの高性能ゆえ、骨の髄まで味わうことは都会の一般路上では事実上、不可能である。それゆえ、怪物性が際立つ。謎に満ちていて、正体がわからないからだ。

ベンテイガ・スピードは大仰な爆音をまき散らす、足まわりをガチガチに締め上げたモンスターではない。12気筒が目覚めるときも、爆裂音でドライバーを驚かせるようなことはしない。あくまでジェントルで、物腰が柔らかい。映画「ベン・ハー」に出てくるローマ戦車風の巨大なホイールをギラリと光らせ、285/40ZR22という扁平タイヤを履いているというのに、街中での乗り心地はごく快適で、超高性能SUVであることを悟らせない。

驚くのは、アクセル・ペダルにのせた右足にそっと力を込めるだけで、じつに軽やかに動き始めることだ。2560kgの巨体がふわり、と羽毛のように軽やかに一歩を踏み出す。それがいともたやすく行われる。眼前のメーター類はコンチネンタルGTさながら。着座位置はなるほど高いけれど、SUVとは思われぬ。中途半端な速度で走っていると、ふらふらしているような感覚はある。それがひとたび速度を増すと、ビシッとする。

タコメーターの針は、よほど意識しない限り、2000rpmを超えることは滅多にない。2000rpm以下で、日本国の制限速度をたやすく超える。室内はあくまで静粛で、乗り心地は快適。ふかふかの絨毯のようではないけれど、さりとて大理石のフロア、むき出しというわけでもない。繰り返しになるけれど、サビル・ロウのスーツに身を包んだプロレスラーに抱かれているような感じで。

会員限定記事会員サービス詳細