鑑賞眼

宝塚歌劇団花組「巡礼の年」 ピアノ演奏にリストの苦悩込め

「巡礼の年~リスト・フェレンツ、魂の彷徨~」でリストを演じる柚香光(左)と、マリー・ダグー伯爵夫人役の星風まどか(撮影・山田喜貴)
「巡礼の年~リスト・フェレンツ、魂の彷徨~」でリストを演じる柚香光(左)と、マリー・ダグー伯爵夫人役の星風まどか(撮影・山田喜貴)

「ピアノの魔術師」と言われる超絶技巧で知られ、19世紀始めのヨーロッパでカリスマ的人気を誇ったフランツ・リスト(1811~86年)。才能だけでなく容姿にも恵まれ、女性ファンを失神させた逸話まで残るが、上演中の「巡礼の年 リスト・フェレンツ、魂の彷徨」では、その若き日の光と影を描く。生田大和作・演出。

リストを演じるのは、ピアノを特技とする花組トップスター柚香光(ゆずか・れい)。その能力を生かし、今作では随所で、生演奏や弾き語りを披露する。柚香が長髪をハラリとなびかせ、彫刻のような顔を揺らし、演奏を始めると、サロンの貴婦人たちが失神寸前に。時にはロックライブのようなアレンジも加わる生演奏は、大きな見どころである。

だがハンガリーの平民出身のリストは、出世のため貴族に頼らざるを得ない。その内面を「アルルカン(道化師)の哀しみ」と批評したマリー・ダグー伯爵夫人(星風まどか)と意気投合し、2人は出奔。後に「巡礼の年」といわれる、自分探しの逃避行に出発する。

ピアノの生演奏も見せ、ロックスターのように振る舞う花組トップスター柚香光(撮影・山田喜貴)
ピアノの生演奏も見せ、ロックスターのように振る舞う花組トップスター柚香光(撮影・山田喜貴)

共和思想の持ち主だったリストが、爵位を与えられると上昇志向を強めるなど、今作のリストはかなり嫌らしい人物だ。フレデリック・ショパン(水美舞斗)への対抗心も隠さず、男装の女流作家ジョルジュ・サンド(永久輝=とわき=せあ)との深い関係もある。

要するに華やかさの陰に、人間臭い矛盾を抱えた存在なのだが、見た目は貴公子然とした柚香が、人間のダークな面を見せる面白さがある。苦悩の中で、なぜ音楽をするのか。その心情を込めたピアノ演奏も効果的だ。

マリーと共鳴し合うも、早々に別々の道を進んだ2人。幕切れで「その後」が描かれるが、余韻が残るラストがよかった。天才の内面を丁寧に演じた柚香に、マリーの芯の強さを見せた星風、水美も早世した天才を熱演。男装の作家を演じた永久輝の美しさも、印象深い。

願わくばショパンやサンドなど、日本でもおなじみの人物が登場し、彼らの名曲を使えるのだから、90分1幕の作品ではなく、1本物でじっくり味わいたかった。

後半のショー「Fashionable Empire」(稲葉大地作・演出)は、〝柚香帝国〟の花組の魅力を、てんこ盛りにした舞台。男役の見せ方がうまい稲葉演出で、革ジャンパーやスーツ、トレンチコートに中折れ帽など、スタイリッシュな場面が連続し、文句なく楽しい。

柚香光(中央)の都会的な魅力が光る「Fashionable Empire」(撮影・山田喜貴)
柚香光(中央)の都会的な魅力が光る「Fashionable Empire」(撮影・山田喜貴)
〝柚香帝国〟のようなスタイリッシュなショーで、様々な表情を見せる柚香光(撮影・山田喜貴)
〝柚香帝国〟のようなスタイリッシュなショーで、様々な表情を見せる柚香光(撮影・山田喜貴)
ショーの締めくくり、柚香光(奥)と星風まどかが大人のデュエットダンスを見せる(撮影・山田喜貴)
ショーの締めくくり、柚香光(奥)と星風まどかが大人のデュエットダンスを見せる(撮影・山田喜貴)

東京での初日が、新型コロナウイルスの関係者感染のため、2週間遅れの14日なった鬱憤を晴らすように、男役娘役とも群舞の端っこまでパワフルだ。今作で退団する実力派娘役、音くり寿の伸びのあるソプラノも美しかった。

9月4日まで、日比谷の東京宝塚劇場。問い合わせは0570・00・5100。(飯塚友子)

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