ホテルが冷凍食品開発に注力、苦戦のレストラン事業をカバー

帝国ホテルキッチンが開発した冷凍食品「黒毛和牛のビーフシチュー」(同社提供)
帝国ホテルキッチンが開発した冷凍食品「黒毛和牛のビーフシチュー」(同社提供)

新型コロナウイルス禍で需要が拡大する冷凍食品に目をつけた高級ホテルが商品開発を強化している。レストランの味を家庭でも味わえる高級感を売りに、日常使いだけでなく、記念日やホームパーティーなど、コロナ禍で高まる「イエナカ需要」を掘り起こす。長引くコロナ禍で宿泊だけでなく、レストラン事業も大きなダメージを受けたホテル業界。救いの一手になるか、試行錯誤が続く。

ホテルオークラ子会社で、飲食店経営や食品製造・販売を手がけるホテルオークラエンタープライズは昨年7月、洋食や中国料理の冷凍食品を開発し、品ぞろえを従来から倍増の計57品目に拡充した。令和2年度の冷凍食品の売り上げは前年度比約3割増と伸び、感染拡大に左右される外食の売り上げ減をカバーする事業として重視する。担当者は「少しでも売り上げを底上げしようと家庭向けの冷凍食品事業の拡大を図っている」と説明する。

ホテルの外食事業が受けたコロナ禍のダメージは大きく、ロイヤルホテルの食堂(レストラン)事業はコロナ禍の影響が出始めた元年度に83億円あった売上高が、3年度には35億円に減少。帝国ホテル東京(東京都千代田区)の同事業も、元年度の売上高64億円が3年度には34億円まで落ち込んだ。一方、コロナ禍で冷凍食品の家庭での利用が定着。日本冷凍食品協会(東京)の調べによると、3年の家庭用冷凍食品の国内生産量は2年比3・6%増の79万8667トンと業務用を初めて上回っており、ホテルも冷凍食品の利用に目をつけた格好だ。

ロイヤルホテルも3年度から冷凍食品の開発部門に専任の料理長を置き、メニューは元年度の2倍に増えた。担当者は「急な来客の備えや手みやげの需要を掘り起こせる」とみて、今年5月から順次、冷凍ケーキなどのオンライン販売も始めている。

ロイヤルホテルが9月下旬に発売予定の冷凍バターサンド(同社提供)
ロイヤルホテルが9月下旬に発売予定の冷凍バターサンド(同社提供)

帝国ホテルは子会社の帝国ホテルキッチンが冷凍食品事業を手がける。前菜からメーン料理、カレーやデザートまで冷凍食品をそろえ、帝国ホテル大阪(大阪市北区)では今年3月に新装オープンした館内ショップでも初めて冷凍食品を販売。「コース料理の雰囲気を自宅で楽しめるとパーティー利用などが増えている」(担当者)という。

日本冷凍食品協会による別の調査では、冷凍食品の利用を増やした理由として「調理が簡単で便利」に次ぎ、「おいしいと思える商品が増えた」との声が多かった。ホテル業界の関係者は「コロナ後も冷凍食品の市場は急激に縮小しない」とみて、安定的に売り上げを伸ばせるとして冷凍食品事業に期待している。

ホテルオークラエンタープライズが昨年7月に発売した、ハンバーグやパスタなど冷凍食品の新商品(同社提供)
ホテルオークラエンタープライズが昨年7月に発売した、ハンバーグやパスタなど冷凍食品の新商品(同社提供)

冷凍食品、普及にホテルの活躍

現代の食卓に欠かせない冷凍食品の普及には、実はホテルが大きな役割を担ったとされる。昭和39年開催の東京五輪が契機となり、選手村食堂で出された冷凍食品が注目され、まずはホテルやレストランで提供が広がった。女性の社会進出を背景に、家庭で冷凍冷蔵庫の購入が増えたことも冷凍食品市場を急成長させた。

39年の東京五輪では、期間中の訪日外国人が1日当たり最大3万人と予想されていた。目前の五輪を契機に来るべき未来を予測して、「大人数への料理提供に対応する時代が来る」と準備をしたのが、当時の帝国ホテル社長、犬丸徹三氏だった。パンアメリカン航空に機内食を供給していた東京ステーションホテルに、上高地帝国ホテル料理長も務めた白鳥浩三氏を2年半出向させ、冷凍食品を研究させた。

都の予想では五輪選手村に各国から約8千人の選手らが滞在し、期間中に必要な食事は約20万人分、60万食とされた。生鮮食品を大量に仕入れる必要があったが、一気に購入を進めると都内の物価高騰を招きかねないとの懸念もあって、白鳥氏が冷凍食品の活用を提案。すると選手村「富士食堂」の料理長を務めた村上信夫氏が、白鳥氏を副料理長に指名して、村上氏は日本冷蔵(現ニチレイ)の協力を得て冷凍技術の研究を重ねたという。

それから半世紀以上経った昨年開催の東京五輪・パラリンピックの選手村食堂で「世界一おいしい」と人気を博したのも冷凍ギョーザだったという。「冷凍食品はまずい」との先入観を払拭できたのには、料理を通じたもてなしを追求したホテルシェフたちの努力があった。(田村慶子)

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