主張

中国の科学力 専制主義と切り離せない

科学研究分野で、中国の台頭が目覚ましい。

各国の研究者から引用される回数が上位1%に入る「トップ論文」の数で、中国が初めて米国を抜き世界一になったことが、文部科学省の研究所が公表した最新ランキングで分かった。

中国は論文の総数と引用回数が上位10%の「注目論文」の数とをあわせ、科学論文に関する3つの指標で世界一となった。

日本はトップ論文の数で10年前の7位から10位に、注目論文でも6位から12位に後退し、低落傾向が深刻化している。20年前はトップ論文、注目論文とも米英独に次ぐ4位だった。

日本の科学研究を立て直すためには、共同研究や留学など海外との交流の活性化が欠かせない。科学研究の量と質で世界のトップに位置する中国が占める比重は大きくなる。

軍事や安全保障に直結する分野で中国の「科学強国化」を警戒しなければならないのは当然だが、科学研究の幅広い分野で中国とどう向き合っていくかは、日本にとっても国際社会にとっても極めて重要で、難しい問題である。

一例として、新型コロナ禍の初期段階の中国の対応を思い起こそう。武漢で発生した原因不明の肺炎の原因がコロナウイルスと判明した初期の段階で、中国はウイルスに関する情報を公開した。その一方で、「人から人へは感染しない」との情報も中国から世界に流布された。

後に分かった新型コロナの感染力の強さと今の中国の科学力を考えれば、科学的な検証の結果、「人から人への感染」の可能性を見落としたとは考えにくい。

新型コロナに関して、中国は科学的な情報公開と科学に反する虚報の流布を、ほぼ同時に行っていたとみなされよう。各国のコロナ初期対応に大きな混乱と遅れを生じさせた責任は重い。

中国は、海外の優秀な研究者の招致にも力を入れている。安定した待遇や恵まれた研究環境を求めて、拠点を中国に移した日本人研究者も少なくない。

研究拠点がどこであれ、良い成果を出すことが全人類への貢献になる、という研究者の思いを一概には否定できない。ただし、科学研究といえども、中国の専制主義から完全には切り離せないことを念頭に置かなければなるまい。

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