「DAO(ダオ)」が描く人口減少下の地域づくり

「ふるさとダオ」のイメージ(岩手県紫波町提供)
「ふるさとダオ」のイメージ(岩手県紫波町提供)

「DAO(ダオ)」と呼ばれるインターネット上の組織の形を使って、人口減少下の地域づくりを進める試みが始まっている。新潟県の旧山古志村を皮切りに、仙台市の若手経営者は東北全体のダオを企画。岩手県の町は町ぐるみでのダオ設立を宣言した。ダオは最先端の情報技術を使って、地域と、国内外にいるその地域のファンである「関係人口」をつなげ、資金調達し、その使い道を決めていく。新たな自治のあり方として注目される。

デジタル村民が上回る

DAOは「分散型自律組織」という英語の頭文字。次世代インターネットの概念「Web3(ウェブスリー)」の一つとして関心を高めている。人口減少に悩む新潟県旧山古志村(現長岡市)の地域団体「山古志住民会議」が昨年12月、村の特産ニシキゴイのデジタルアート作品を地域の「電子住民票」として世界で初めて販売したところ、半年間で現実の住民811人を上回る965人の「デジタル村民」が生まれた。

このデジタル作品には、ブロックチェーンという技術を使い、「NFT」と呼ばれる権利の証明書が発行される。NFTを持つデジタル住民は、米国生まれのチャットサービス「ディスコード」内のコミュニティーに集い、顔も名前も知らない中で山古志の活性化策を議論している。

NFTの販売益から予算を拠出し、デジタル住民が提案した事業を投票によって採択する。こうした民主的な組織のあり方から、ダオは「デジタル協同組合」とも呼ばれる。

山古志では、現実の住民にも参画してもらおうと、希望者にNFTを無償で配布。今後は現実とデジタルの両住民による地域づくりに向け、「山古志DAO」の設立を目指している。

厳密な意味でのダオは、「スマートコントラクト」と呼ばれるプログラムにより組織が自律的に運営される仕組みだが、代表の竹内春華さん(41)は「デジタル住民のコミュニティーは、すでにダオ的な運営となっている。村のイベントにデジタル住民が参加するなど現実の交流も始まった」と手応えを口にする。

長岡市の出先機関、山古志支所の担当者は「市も公認し、全面的にバックアップしている」と話す。自治体とは別の次元で、新たな自治が始まっている。

関係人口が町政に参画

政府は6月に閣議決定した今年の「骨太の方針」に《NFTやDAOの利用等のWeb3の推進に向けた環境整備の検討を進める》と初めてダオを盛り込み、デジタル庁がスマートコントラクトとダオの法的位置づけの整理を始めている。

閣議決定の3日後、岩手県中部の紫波(しわ)町。熊谷泉町長(74)は町議会の全員協議会で、全国初という「Web3タウン表明」を宣言した。

「デジタルのコミュニティーから多様な人たちの関係性が生まれ、アイデアや解決策、投資、寄付といった共感や支援を現実世界に結びつけて、地域を元気にしていく時代が到来した」

宣言は、目指す施策として「地域課題の解決を目指す『FurusatoDAO(ふるさとダオ)』の設立」を掲げた。町企画課の森川高博副課長(47)は「現実の議会や住民の声を尊重することはこれからも変わらない」とした上で「ダオに集まってくれる紫波町のファン、関係人口の方々にも、何らかの形で町政へ参画してもらう方法を模索したい」と説明する。

ダオへの参加資格は、町でボランティア活動をするなど実際に貢献している人や、NFTを投機目的でなく長期的に保有している人に、権利を付与する方法が考えられるという。ディスコード内のコミュニティーには160人が参加している。

ふるさと納税の使途も

紫波町は盛岡市のベッドタウンで、人口3万3千人。公民連携によるまちづくり「オガールプロジェクト」で知られる。今回、町にダオなどを提案し、技術的な支援を行うのは、町に本社を置くITベンチャー企業「ソコ・ライフ・テクノロジー」の菅原壮弘(そうこう)社長(40)。

町出身の菅原さんは「多くの自治体は地方創生に向けたアイデアや地域資源を持っていても、財源や人的資源が足りず、実現できないことが少なくない。ダオによって自主財源を確保し、人的資源の不足を解決できる」と話す。

町は、ふるさと納税の返礼品として、NFTつきのデジタルアート作品の提供も目指す。すでに北海道の上士幌、余市両町が4、5月、全国初のNFTつきドローンショーの映像(寄付額435万円)やワインと女性のイラスト(同12万円)の返礼品をそれぞれ始めた。余市のイラスト54点は初日で申し込みの上限に達する人気ぶりだった。

紫波町の森川さんは「ふるさと納税の寄付金の使い道をダオで決めるというのも、素晴らしいアイデアだと思う」と語る。

地域通貨で経済を回す

東北6県をカバーする「みちのくDAO」。ディスコードのコミュニティーには262人が参加する。

発起人で仙台市の投資会社「マコトキャピタル」の福留秀基社長(29)は堺市出身。進学先に東北大工学部を選んだことから、東北との縁が始まった。東京都内のコンサル勤務をへて、仙台でベンチャー投資会社を経営する。みちのくダオを立ち上げたのは、東日本大震災から11年となった今年3月11日午後2時46分の1分後、黙祷(もくとう)を終えた直後だった。

「震災復興だけで語らない、面白い東北を作りたい。社会課題はたくさんある。仲間となる起業家もいる。見守る支援者や行政もいる。足りないのはコミュニティーと金融だと思う」

今後はダオを設立し、新たな金融として、「デジタル地域通貨」の発行を目指したいという。

「例えば、『岩手の八幡平の美しい朝日を見よう』というツアーを『円』でなく地域通貨『東北コイン』で払ってもらう。その決済を地方銀行が扱い、手数料収入を商店街など地元に還元していく。インバウンドの外国人も、ドルから円に両替するところを『トーホクコインがいいらしい』となれば、地域通貨に替えてくれるようになる。そうやって経済を回し、新しい経済圏を作っていきたい」

みちのくダオのコミュニティーには、国内外の東北ファンの関係人口をはじめ、現職首長や行政職員、そして地銀マンらも参加しているという。

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