都会で需要増も 納骨堂は「迷惑施設」なのか

故人をしのぶ気持ちは変わらずとも、お参りのあり方に変化が生じている。墓に代わる施設として、全国で建設が進む納骨堂。墓じまい後の改葬先や引き取り手のない遺骨の安置先として機能する。立地の良さに加え、維持管理が不要というメリットに注目が集まるが、近隣から「迷惑施設」と煙たがられ、訴訟に発展するケースも珍しくない。

「精神的苦痛もたらす可能性」

「なんやこれ」

平成28年11月ごろ、大阪市淀川区に突如立った看板に、多くの近隣住民が目を奪われた。納骨堂建設を告知する内容。地域の70代男性は「びっくりした」と振り返る。

計画されたのは、6千柱を超える数の遺骨を納めることができる6階建てビル型納骨堂。お参りに訪れた人が「参拝室」に入ると、遺骨を納めた厨子(ずし)が墓石に自動でセットされる仕組みだ。

死はいつか平等に訪れるものとはいえ、学校や住宅といった生活空間のど真ん中に、死を連想させる納骨堂が建つことへの抵抗感はぬぐえない。70代男性ら近隣住民は精神的苦痛や不動産価格の下落を理由に、大阪市に経営許可の取り消しを求める訴えを大阪地裁に起こした。

裁判では、そもそも住民らに訴訟を起こす「原告適格」があるかどうかも争われたが、5年以上の時を経て、大阪高裁は今年2月、原告適格を認める判決を出した。「重大な精神的苦痛をもたらす可能性がある」とも指摘した上で、訴えを門前払いした地裁に審理を差し戻している。

原告側代理人の服部崇博弁護士は「納骨堂をめぐる訴訟で原告適格が認められるのは初めて。画期的な判決だ」と評価する。

核家族化で価値観に変化

一般的に納骨堂は、墓地に墓石を立てるより経済的で、多くが市街地に立地するため参拝が容易。猛暑の中、お盆に合わせて墓石を磨いたり、除草したりといった手入れは必要ない。

その代表的な施設がビル型納骨堂だ。

近年、少子高齢化や独身世帯の増加に伴う墓地の継承者不在などを背景に墓の遺骨を改葬する人が増加。納骨堂の数も右肩上がりで増え続けており、令和2年度は全国で1万3038施設に達している。

「終活」や墓などに関する著書が多数あるシニア生活文化研究所(東京)の小谷みどり代表理事は、「かつては大きな墓が『家』の誇りとされたが、核家族化が進んだことで価値観が変化し、こだわらない人が増えた」と分析する。

無縁遺骨は増加

国勢調査によると、国内全世帯のうち、平成17年は夫婦と子供で構成する世帯が約1463万世帯で最多だったが、22年に単独世帯が約1678万世帯でトップに。また令和2年調査では、約3500万人いる65歳以上の5人に1人が、一人暮らしだった。こうした状況のもと、小谷さんは引き取り手のない遺骨が増えることを懸念している。

墓地埋葬法は、身寄りのない人が亡くなると、自治体が火葬し、埋葬すると定める。こうした無縁遺骨が入る納骨堂は主に公営で、宗教法人などが運営するビル型施設とは趣が異なる。

大阪市では令和2年、市内で亡くなった人の約10%に当たる2773柱の遺骨を無縁遺骨として公営の納骨堂に納めた。市の担当者は「(無縁遺骨は)毎年100件前後のペースで増えている」と説明する。

それでも、いわゆる“天涯孤独”の人はごくわずかで、ほとんどは身元が分かっているが、遺族が引き取りを拒んだり、連絡がつかなかったりする。

小谷さんは「お金持ちでも既婚者でも、親族と疎遠で無縁遺骨となるケースは珍しくない。誰に死後を託すのか。誰もが考える必要がある」と話している。

(地主明世)

墓地と納骨堂

遺骨を土中に埋葬する墓地に対し、納骨堂は遺骨を収蔵するための施設とされる。いずれも自治体の事前許可が必要で、申請は自治体や宗教法人などに限られることがほとんど。厚生労働省のまとめによると、令和2年度時点で納骨堂は全国に1万3038施設、墓地は約87万カ所ある。墓じまいなどによる改葬件数は約12万件だった。

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