京都の夏の伝統行事「京都五山送り火」が16日夜、3年ぶりにすべての火床に点火する本来の形で実施される。新型コロナウイルスの影響で規模を縮小した2年間は点火に関わる人数の制限を余儀なくされ、技術継承を不安視する声もあった。五山の各保存会のメンバーらは全面再開できる喜びをかみしめるとともに、おさらいを重ねて本番に臨む。
「2年分の思いをぶつけたい」。最初の午後8時に「大」の文字がともされる大文字山(465・3メートル、京都市左京区)を担当するNPO法人「大文字保存会」の中村秀哉(ひでや)さん(50)が声を弾ませる。
大文字山では11日から、会員ら約60人が火床周辺の草刈りや登山道を整備。本格的な草刈りは3年ぶりとあって、草刈り機やチェーンソーを持ち込んでの大がかりな作業となった。大文字山の火床は計75カ所。山の斜面に火床が点在するため階段状の登山道が設置されているが、階段の丸太も一部新品に取り換えた。
令和2、3年はコロナ対策で、五山のそれぞれの文字・形の火床を1~6に大幅削減。大文字保存会では例年約600人が山に登り、そのうち約300人が点火に携わるが、火床を6カ所のみにしたこの2年は約30人だけで点火した。今年は点火者を200人に増やしたものの、経験者のみに限定した。
保存会の長谷川英文(ひでふみ)理事長(77)は「2年のブランクは大きい」と説明する。火床に積み上げる割り木は機械で均等に裁断されたものではなく、組み方によってはうまく点火できない場合がある。「今回、一斉に点火できるか、割り木が崩れずに火を維持できるか不安が残る」。そのため、保存会は7月末に研修会を開き、再度割り木の組み方や点火方法などをおさらいした。
さらに各保存会には、少子高齢化の影響による担い手不足という課題もある。大文字保存会ではコロナを理由に退会した会員はいないが、年間40日にも及ぶさまざまな作業を欠席する会員もいたという。そうした中で、会員予備軍となる若手グループを構成するなど後継者作りにも乗り出している。長谷川さんは「コロナ禍を乗り越えてやっと本来の形に戻った。伝統を継承しつつ、万全を期して臨みたい」と話している。(田中幸美、写真も)
◇
京都五山送り火
盆に迎えた先祖の霊を送るとともに無病息災を祈る宗教行事。京都市を囲む山で毎年8月16日夜、松などを燃やして「大文字」「妙法」「船形」「左大文字」「鳥居形」の順で文字・形を炎で浮かび上がらせる。文献史料によると、江戸時代には現在のような形で定着したとされる。五山それぞれに、地元住民らでつくる保存会があり、運営を担っている。