フルリモートでJVA中小機構理事長賞受賞 宮崎へ本社移転で地方創生も 中川祥太・キャスター代表取締役

JVAで中小機構理事長賞を受賞した中川祥太代表取締役(右)と豊永厚志理事長=2021年3月1日
JVAで中小機構理事長賞を受賞した中川祥太代表取締役(右)と豊永厚志理事長=2021年3月1日

革新的で潜在成長力の高い事業や社会的課題の解決に資する事業を行う、志の高いベンチャー企業の経営者をたたえる表彰制度「Japan Venture Awards(JVA、ジャパンベンチャーアワード)」(主催・独立行政法人中小企業基盤整備機構=中小機構)。第22回となる今年も応募を受け付け中(8月25日まで)だ。経営者個人を表彰する点が大きな特徴で、今回から地域経済の活性化や地域課題の解決に貢献する事業に取り組む起業家を対象にした「地域貢献特別賞」も新設する。300人を超える歴代受賞者は多士済々だ。なかでも一昨年度、中小機構理事長賞を受賞したキャスター(宮崎県西都市)の中川祥太代表取締役は、リモートワーク事業を運営し、3年前に本社を東京から九州に移転するなど、その先進的な取り組みが評価され、現在も注目されている。

→「第22回Japan Venture Awards」詳細はこちらから

リモートワークが当たり前の社会へ

中川氏が「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げて、住む場所に関係なく働けることが当たり前になる社会を目指してキャスターを創業したのは2014年9月。大阪から上京して10年後だった。新型コロナ禍以前の当時は革新的な試みだった。

ただ、中川氏は「最初から起業しようと考えていたわけではない」と振り返る。大学時代、バンド活動の傍ら、テレホンアポインターのアルバイトをした。

「職業や学歴に関係なく、成果を挙げる人が残る。〝ヤマンバギャル〟や〝チーマー〟の人たちが活躍する衝撃的な環境でした」

その後、知人の誘いで東京・下北沢の居抜き物件の一部を使って古着屋を始め、初めて〝経営〟に挑戦した。リュックを背負ってバイクにまたがり、地道にフリマを回って中古スニーカーなどを買い求めた。だが、フリマ頼みでは仕入れは安定しなかった。

そんな折、店舗の半分を貸していた事業者がインターネットを使ってシルバーアクセサリーを売っていた。

「1個100万円ぐらいのブランド品がブログに載せると、あっという間に売れるんです。これはインターネットをやらなきゃダメだなって」

古着屋をたたみ、ネット広告代理店に入社、さらにサイト監視を手掛ける企業に転職、クラウドソーシングに関わることになった。

人手不足にもかかわらず、オンラインワーカーを活用しようとすると「すごく応募者が多くて、女性や地方在住者を中心に優秀な人材も多かった」という。ただ、業務委託には最低賃金が適用されないなど、雇用のルールが定まっていなかった。委託側の言い値で条件も決まるのが一般的だった。

「時給に換算すると10円を切るような事例もありました。それでは続かないし、スキルの高い人は『やめておこう』ってなりますよね」

スキルや意欲があるのに育児・介護や居住地がネックとなって働き口が限られる。しかも仕事に見合った報酬が受けられない―。そんなオンラインワーカーの発展途上な環境にもどかしさを覚えた。それが中川氏を起業に駆り立てた。

オンライン取材に応じる中川祥太代表取締役
オンライン取材に応じる中川祥太代表取締役

時代の要請

日本の場合、起業のハードルは高い。知名度や実績に乏しく、土地などの担保もなければ金融機関も融資に慎重になりがちだ。

だが、少子高齢化や人口減少が進むなか、リモートを活用するビジネスモデルは時代の要請でもある。ある投資家は「本気で君がこの分野でビジネスをするなら全面的に支援する」と話したという。中川氏は「その人は今もウチの株主ですよ」と笑う。

創業は横浜だった。その後、東京に本社を移した。ただ、キャスターはリモートワーク事業を手掛ける会社とあって、組織運営もフルリモート。役員も首都圏在住者ばかりではない。

起業してみて「本社が首都圏である必要はない」と結論付けて、役員の1人が居住する宮崎県に移転を決めた。そして、車の渋滞や駐車場確保などを考慮して、県都の宮崎市ではなく以前から拠点のあった西都市を選んだ。2019年のことだ。

本社と同じ敷地内で運営するカフェ×コワーキングスペース=宮崎県西都市
本社と同じ敷地内で運営するカフェ×コワーキングスペース=宮崎県西都市

西都市では市から委託を受けて、本社と同じ敷地内でカフェ×コワーキングスペースを運営するほか、移転早々に同県椎葉村と連携してワーケーションを実施した。96%を山林が占めるという同村の自然や夜神楽などの伝統に触れ、村民との交流も実施した。

椎葉村でのワーケーション風景
椎葉村でのワーケーション風景

その経験などを踏まえ、翌年には村とリモートワーク推進に関する協定を締結した。人口減少に直面する村に「働き口」を提供することで、移住促進を仕掛けようというものだ。村への移住者にリモートでの仕事を提供し、同時に村が空き家や村営住宅などの住居を提供、さらには両者が連携することで移住者と地元民の交流も後押しする。これらを通じて村を活性化しようという試みだ。

前述のようにJVAは今回から「地域貢献特別賞」を新設したが、中川氏のこうした活動に中小機構内からも「まさに同賞のロールモデル」との声が上がるほどだ。

リモートのない会社は3割程度に

新型コロナ禍で企業のリモートワークは格段に浸透した。言い換えればキャスターにとっても追い風だった。今や全国47都道府県で1500人以上がフルリモートで働く。

また、近くドイツ(ベルリン)やアラブ首長国連邦(ドバイ)にも拠点を設けて、海外にも進出する。今年2月には、第一生命保険などを引受先とした総額約13億円の第三者割当増資を実施したと発表した。

経営者として、順風満帆な道を歩んでいるようにも映る中川氏。では、コロナが落ち着いた後の事業環境、言い換えればリモートの需要をどうみているのか。答えは明快だった。

「今後も重要度は増していくと思います。だって、みんなリモートのメリットをいっぱい知っちゃったじゃないですか」

確かにコロナ禍以降、毎日、満員電車に揺られて自宅と会社を往復しなくてもできる仕事があることもわかった。もちろん、エッセンシャルワーカーなど業種や業務内容によって当てはまらない人もいる。

ただ、多くの人は自分の業務が本当に毎日会社に行かなければできないものか―を考える機会になった。また、企業側もリモートの活用で、オフィスの再編など資産圧縮につながる可能性などを見いだした。だから中川氏は言う。

「20年ぐらいのスパンでみればリモートワークのない会社は3割程度になるのでは」

JVA受賞のメリット

中川氏が当面の目標に据えるのが「1万人雇用」だ。また、株式上場についても「準備はしています」と語る。

JVA受賞のメリットについて「受賞後、行政機関からのリモートに対する相談が増えました」と語る。さらに「公的機関に近い投資家などは、投資の適格性を評価する際に、受賞したことが加点ポイントになっていると思います」とも。

そして、全国の起業家にエールを送るとともに「挑戦できるモノにはすべて挑戦しましょう」とJVAへの応募を呼びかけた。

【JVA】 次代の日本のリーダーとして果敢に挑戦する起業家をたたえ、更なる発展に貢献するとともに、ロールモデルとして広く紹介することで、創業機運を高め、日本での創業の促進を図ることが目的の表彰制度。創業からおおむね15年以内の経営者が対象で経営者の資質や成長性、革新性、社会性などの観点から審査を行う。2000年の創設以来、328人のベンチャー経営者らが経済産業大臣賞や科学技術政策担当大臣賞などの各賞を受賞している。

また、ベンチャー企業の発掘や育成に貢献したベンチャーキャピタリストの募集、表彰も行う。受賞者は12月8日に東京都港区の虎ノ門ヒルズフォーラムで開催する表彰式で発表する。

中小機構では「(中川氏が指摘するように)国の機関から経営者が表彰されることで、企業の信用力の向上や社員のモチベーションの向上につながっていると思う」としたうえで、「メディアに取り上げられることによるPR効果もある」と説明。起業家への応募を呼びかけている。

→「第22回Japan Venture Awards」詳細はこちらから


なかがわ・しょうた

なかがわ・しょうた

下北沢にて古着屋を経営した後、ネット広告代理店のオプト、サイト監視などを手掛けるイー・ガーディアンなどを経て2014年9月、キャスター創業。ソーシャルリスクの専門家として、テレビへの出演や連載を持つ。20年2月、リモートワークが当たり前になる社会を目指し、リモートワーカー協会設立。21年3月、JVA2021中小機構理事長賞。大阪府出身。36歳。

提供:中小企業基盤整備機構

会員限定記事会員サービス詳細