〝敵役〟日本を「自由守る同志」へ転換 尹大統領演説、実践は難しく

15日、ソウルで開かれた「光復節」の式典で演説する韓国の尹錫悦大統領(聯合=共同)
15日、ソウルで開かれた「光復節」の式典で演説する韓国の尹錫悦大統領(聯合=共同)

【ソウル=桜井紀雄】韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は15日、日本の朝鮮半島統治からの解放を記念する「光復節」の演説で、日本を自由民主主義や人権、法治を守るために連帯すべき「隣人」と位置づけた。日本を愛国心をあおり北朝鮮との民族団結を演出する際の〝敵役〟としてきた歴史観から脱却する姿勢を鮮明にした。ただ、国内では日韓関係改善を優先する尹政権への反発も強く、日韓間の懸案解決の見通しは立っていない。

「1945年のきょう、独立運動は終わったわけではない」。尹氏はこう指摘し、〝独立運動〟が共産勢力に対抗して自由国家を建国した後も、経済成長を成し遂げ民主主義を発展させる過程を通して続いてきたとの認識を示し、「現在も進行中だ」と強調した。

文在寅(ムン・ジェイン)前政権を支えた左派層は、朝鮮半島の人々が日本統治に抵抗した歴史に正当性を見いだす半面、北朝鮮と対峙(たいじ)しながら経済成長を達成した朴正熙(パク・チョンヒ)政権時代などを、軍事独裁政権が民主派を弾圧した「暗黒史」と描いてきた。尹氏はこの現代史を、独立運動の延長線上にあり、共産陣営から自由を守った誇るべき時代として再評価した。

尹氏は、普遍的な価値として自由や人権、法治を掲げ、その価値を共有する国々と連帯し、自由や人権への脅威に共に対抗することこそ「時代的使命」だと強調。演説で「自由」という単語を33回も使った。

自由に最大の価値を置く立場から戦前の日本は、韓国人が「自由を取り戻すためにその支配から脱すべき対象」だったが、今は「世界市民の自由を脅かす挑戦」に共に立ち向かう〝同志〟に生まれ変わったという歴史認識が読み取れる。

尹氏は6月に北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席するため渡欧した際も価値を共有する西側諸国との連帯を訴えた。

今回の演説では日本への否定的な言及はほぼなく、反日感情を「国内政治に利用しない」という就任前から主張してきた立場を反映させた形だ。

「世界市民の自由を脅かす」存在が、ウクライナを侵略したロシアや、香港などの自由と人権を抑圧する中国、核・ミサイルの脅威で存在感を示そうとする北朝鮮を指すことは明白だ。ただ、尹氏は今回、中国などを名指しせず、経済面への影響を考慮して中国を刺激する言動を避けざるを得ない限界もうかがわせた。

尹氏の演説に対し、元慰安婦の李容洙(イ・ヨンス)さんは「なぜ日本との関係改善だけ話し、未解決の慰安婦問題について一言もないのか」と批判した。対日関係を優先する尹政権に対しては、いわゆる徴用工訴訟の原告らも強く反発しており、徴用工や慰安婦問題といった具体的な懸案の解決が見通せない状況に変わりはない。

尹大統領が日本に「共に脅威に立ち向かう隣人」と呼びかけ 初の光復節演説

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