新聞に喝!

ペロシ氏訪台「自制すべきは米国」に違和感 日本大教授・小谷賢

ペロシ米下院議長(左)と台湾の蔡英文総統=3日、台北(総統府提供・AP)
ペロシ米下院議長(左)と台湾の蔡英文総統=3日、台北(総統府提供・AP)

米国下院議長のナンシー・ペロシ氏が台湾を訪問したことが、米中関係に一石を投じている。今回の訪問は外交的に練られたものというよりは、氏の政治的なスタンド・プレーのようだ。中国からすれば、共産党大会を控えたタイミングの訪問は最悪で、習近平国家主席はバイデン米大統領に強い口調で警告したとされるが、大統領は三権分立を理由にペロシ氏を制止しなかった。こうしてメンツを潰された形の中国は、台湾を囲む形での軍事演習を強行した。今回は初めて中国人民解放軍が中台の中間線を越え、かつ日本の排他的経済水域(EEZ)にもミサイルを落下させるというかなり挑発的なものとなった。

今回のペロシ氏の台湾訪問に対して、中国は軍事力で応えた形となる。さらに言えば今後、中国は台湾周辺での軍事演習や、台湾対岸での部隊展開を常態化させる可能性もあり、訪問はその口実を中国側に与えたことになる。ただ今回の件がなくとも中国は台湾侵攻に向けた布石を着実に打ち続けており、焦点は米国やその同盟国が中国を抑止できるかにある。これに対して朝日新聞は「いたずらに緊張を高め、地域を不安定化させる行動は慎むよう日本は米国にも強く働きかけていく必要がある」とするが、緊張を高めているのは中国側であるため、米国に自制を求めるのは違和感を覚える。産経新聞や日経新聞が論じているように、日本としては米国と連携して中国を抑止する方向に進むべきだろう。

米軍は世界最強の軍隊であるが、東アジアに限定すれば、中国優位の状況になりつつある。今、中国が台湾に侵攻すれば、米軍がそれを押しとどめられるかは微妙だ。そこで米国は東アジア地域での軍事力の増強や同盟再編によって、対中軍事バランスを均衡させようとしている。6月には米上院議員2人が台湾支援強化法案を提出、台湾の防衛力強化を促した。また昨年9月には米英豪で軍事同盟となるAUKUS(オーカス)を結成し、豪州へ原子力潜水艦を供給することで、中国の海洋進出にも備えている。今後は、日本にもそれなりの軍事的貢献が求められることになるだろう。

今回、岸田文雄首相は訪日したペロシ氏と直接会談を行うことで、日本の旗幟(きし)を鮮明にした。韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が直接会談を避けたのとは対照的だ。昨年、故安倍晋三元首相が「台湾有事は日本有事」と発言し、中国側の怒りを買ったとされるが、われわれも台湾問題に対して真剣に向き合う時が来ている。

【プロフィル】小谷賢(こたに・けん)

昭和48年、京都市生まれ。京都大大学院博士課程修了(学術博士)。専門は英国政治外交史、インテリジェンス研究。著書に『日本軍のインテリジェンス』など。

会員限定記事会員サービス詳細