JR、ローカル線の存廃議論加速 国鉄民営化以来の構造改革

収支が悪化しているJR木次線=島根県雲南市
収支が悪化しているJR木次線=島根県雲南市

JR各社が地方路線の存廃をめぐる自治体との協議を加速させようとしている。沿線人口の減少や道路網の普及で地方路線の経営悪化が止まらない中、国が鉄道事業者と自治体の協議を仲介する方針を打ち出したためだ。昭和62年の国鉄民営化以後、JRにとって最大の構造改革になりうる動きで、その行方は地方社会の将来像も大きく左右する可能性がある。

「マイカーの普及などで、生活スタイルや街づくりは大きく変化した。今日的な議論を進めるステージにわれわれは立っている」

JR西日本の長谷川一明社長は3日、国鉄民営化以降の社会の変化を踏まえ、地方路線の見直しをめぐる議論の意義を強調した。

長谷川氏の発言は、国土交通省の有識者会議が7月に公表した「ローカル鉄道のあり方に関する提言」を踏まえたものだ。輸送密度(1キロ当たりの1日平均乗客数)が千人未満などの路線を対象に、地元自治体か事業者の要望があれば、鉄道存続やバス転換などを話し合う協議会を国主導で設置することを打ち出した。協議会は開始から3年以内に結論を出すことが求められ、「議論の先延ばしを許さないという点で画期的だ」(岩井コスモ証券の饗場(あいば)大介シニアアナリスト)とされる。

国が動いた背景には、JR各社の地方路線の惨状がある。JR西日本は4月、輸送密度が2千人未満の17路線30線区の収支状況を公表。平成29~令和元年度の営業損益が平均ですべて赤字だった。100円の収入を得るために必要な経費が、2万5千円以上かかる路線もあった。

JR東日本も7月、輸送密度2千人未満の35路線66線区の収支を発表し、元年度は全線区が赤字と明かした。JR九州も2年に赤字線区の収支を公表している。

旧国鉄の民営化時にも利用が少ない路線を対象にバス転換などが進められたが、JR発足後も地方路線の赤字体質は解消されなかった。ただ、乗客が多い都市部の〝ドル箱〟路線で地方路線の赤字が埋め合わせられたことや、民営化時の財政支援措置などを背景に、「JR側は地方路線の協議を自治体に強く持ちかけられなかった」(鉄道業界関係者)と指摘される。

しかし、新型コロナウイルス禍で鉄道需要が急減し、都市部の収益で地方路線を支える構図が成り立たなくなった。4年3月期決算では、JR旅客6社のうち、JR九州を除く5社が最終赤字に陥った。

有識者会議の提言について、地方自治体からは「廃止が目的に見える」(湯崎英彦・広島県知事)と警戒の声があがる。ただJR東管内では、自治体が鉄道施設と土地を保有しJRが列車の運行などを担う「上下分離方式」と呼ばれる仕組みの導入で合意した事例もあり、協議の行方はあくまでも当事者の意向次第だ。

岩井コスモ証券の饗場氏は「JRにとっても、高齢者など地方の交通弱者に移動手段を提供するということは、ESG(環境・社会・企業統治)経営の一環として意義がある」と述べ、収益性が低くてもJRが地方に関わる意味は少なくないと指摘する。JRと自治体がどのような知恵を出し合うことができるかが、今後の地方の姿を左右することになる。(黒川信雄)

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