正論9月号

日米訓練に水差す岸田首相の感度問う 月刊「正論」編集部

過去実施された航空自衛隊のF15戦闘機(手前の3機)と米軍のF16戦闘機による共同訓練(防衛省統合幕僚監部提供)
過去実施された航空自衛隊のF15戦闘機(手前の3機)と米軍のF16戦闘機による共同訓練(防衛省統合幕僚監部提供)

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日本周辺で中国軍やロシア軍、さらには北朝鮮軍も活動を活発化させる中、米軍は六月から七月にかけて、日本周辺海域や東シナ海などにおいて大規模訓練を実施した。自衛隊との共同訓練も行い、日米の抑止力強化を図った。この取り組みに水を差した人物がいた。

岸田文雄首相である。

間近に迫った参院選への影響を考慮し、米軍機を沖縄県の嘉手納基地から山口県の岩国基地に分けるよう米軍と交渉することを指示していたのだ。米軍はこの時期の訓練を重視していたにもかかわらず、訓練に参加する飛行機の削減を迫られるなどしたため、失望が広がった。七月には安倍晋三元首相が凶弾に倒れ、日米同盟は支柱的存在を失った。その安倍元首相を失ったいま、岸田首相の対応は今後の日米間の連携にしこりを残しかねない結果となった。

「岸田首相の指示はかたくなだった」と、ある日本政府当局者は語る。六月に入って、岸信夫防衛相に対し、米軍機を基地問題が選挙戦で常にクローズアップされる沖縄の嘉手納基地ではなく、岸氏の地元岩国に振り分けるよう米側と交渉するよう求めたのだ。

嘉手納は台湾有事をにらんだ対中対峙の「最前線」の基地。その嘉手納に米軍は「第五世代」と呼ばれる最新鋭戦闘機でレーダーに映りにくいステルス性能などを備えたF22戦闘機や、同じく最新鋭のF35戦闘機などを一堂にそろえようとした。

米側は日本が当然、歩調をあわせて訓練に臨むと踏んでいたに違いない。実際、米軍は訓練に備えてF22とF35を中心に、空中給油機や支援機を含め五十機近くを日本に派遣することを決定。嘉手納基地には米ハワイ州ヒッカム空軍基地所属のF22戦闘機を十二機、空中給油機十二機、輸送機オスプレイV22を三機、C17輸送機二機を派遣することにした。このほか嘉手納基地には、三沢基地所属のF16戦闘機、米原子力空母ロナルド・レーガン艦載機のFA18Eスーパーホーネット戦闘攻撃機、岩国基地配備のEA18Gグラウラー電子戦機が相次いで飛来。六月二日には岩国基地に配備されているF35Bが三機飛来したことも確認され、この日までに嘉手納基地に飛来した米軍機は三十二機に上った。嘉手納町によると三十機以上飛来したのは、二〇〇六年の三十二機、〇七年の三十機以来だった。アラスカ州に所属するF35A十八機も岩国に展開した。

米側の訓練にかける意気込みはこれだけでも明白だ。ところが、岸田首相の指示を受けて、日本政府当局者らは米側と折衝。最終的にはアクイリノ米インド太平洋軍司令官が六月中旬に当初の予定を変更する決定を下したのだ。

変更内容は、F22十二機を嘉手納に留まらせることは断念し、六月十八日に岩国に移動させた。嘉手納に派遣する空中給油機は十二機から七機に減らした。F22、F35Aを加えると、岩国に展開する第五世代の戦闘機は三十機となったため、さすがに岩国でも「三十機が訓練するのは異例。基地機能の強化につながると市民団体から懸念の声が上がっている」(六月二十日付中国新聞)との報道も出た。

岩国の理解を得るため、日米両政府は滑走路の運用時間を午前六時三十分から午後十一時までとし、時間外に使用する場合は岩国市に通報することにした。また、午後十時以降は着陸した直後に離陸する「タッチ・アンド・ゴー」訓練は行わず、週末の飛行計画も中止とした。

共同訓練の目的

そもそも、嘉手納基地を中心に第五世代機を含めた戦闘機をずらりと並べることは、中国、ロシア、北朝鮮に向けた「強いメッセージ」(米軍関係者)を送ることが目的だった。

二月下旬から始まったロシアによるウクライナ侵略によって、欧米の関心は東アジアからウクライナに向きがちだった。そうした中でも、米軍は東アジアにおいても抑止力を中国などに見せつけ、けん制することを迫られていた。

東アジアでの緊張は確実に高まっていた。北朝鮮は日本海に向けて弾道ミサイル発射を繰り返し、六月上旬にウィーンで始まった国際原子力機関(IAEA)の理事会でラファエル・グロッシ事務局長は、北朝鮮が核実験の準備を進めている可能性があるとの懸念を表明した。

中国軍やロシア軍の艦隊は昨年十月にそろって日本列島を周回したのに続き、今年に入ってからも日本周辺で活発な動きを続けている。五月二十四日には、中国軍とロシア軍の爆撃機が日本周辺の上空を共同飛行した。

米軍関係者は「第五世代」の戦闘機をずらりと嘉手納に並べる別の狙いも明かす。それは、「第四・第五、特に第五世代戦闘機に対して、中国軍がどれだけ反応できるかを見極める目的もあった」というのだ。

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