77年前、旧ソ連が一方的に日ソ中立条約を破棄して旧満州(中国東北部)に侵攻したのは、終戦のわずか6日前。その後、58万人もの日本人がシベリアに連行された。京都府福知山市の獣医師、平野力(つとむ)さん(98)もその一人。終戦の日を前に自身の体験と重なるのが、ロシアによるウクライナ侵攻が続く現状だ。「国際法を簡単に破る。スターリン時代と何ら変わっていない」と、憤りを募らせている。
「ダモイ」とだまされ、シベリアへ
「私たちとおんなじだ。こんな強権的なやり方が許されるわけがない」。報道されるウクライナの現状にやるせない表情を見せる。
福知山市で生まれ、旧制岐阜高等農林学校獣医学科を経て徴兵後に満州へ。昭和20年には新京(長春)の陸軍獣医学校で幹部候補生として教育を受けていた。
20年8月9日、ソ連が参戦した-との報に「命はない」と覚悟を決め、地面に掘った「たこつぼ」で爆弾を抱えながら敵戦車の襲来を待った。「明日には木っ端みじんになる。自分の人生は何だったんだろう」。たこつぼに身を潜め、夜空に広がる星に涙した。まだ21歳だった。
結局、敵の襲来はなく、朝鮮との国境地帯に後退する途中で終戦を迎え、武装解除された。「生きて虜囚の辱めを受けず」と信じていただけに「頭の中が真っ白になった」と振り返る。