刑務所は偽装請負でも採用義務なし 「官民矛盾」判決の波紋

大阪地裁での敗訴判決を受け、会見する元運転手の男性(左)=6月30日、大阪市北区
大阪地裁での敗訴判決を受け、会見する元運転手の男性(左)=6月30日、大阪市北区

違法な労働者派遣が発覚したとしても、国は直接雇用に切り替えなくてもよい-。労働条件が不利とされる「偽装請負」の状態で医療刑務所の収容者を移送していた元バス運転手に大阪地裁は6月、直接雇用は認められないとする判決を出した。民間が同様の事態に直面した場合、厚生労働省は直接雇用への切り替えを指導していることから、判決を「官民矛盾」と批判する声も上がる。争点は労働者派遣法「40条の7」の解釈。司法はどのような根拠で、労働者に不利な結論を導いたのか。

「偽装請負」認定も…

提訴したのは、大阪医療刑務所(堺市)の元運転手(66)の男性。収容者のバス移送が主な業務で平成24年以降、刑務所ではなく請負契約先の会社所属だったが、業務上の指示は刑務所側から直接受けていた。

刑務所と会社が労働者派遣契約を結び、運転手が会社から刑務所に派遣されているのであれば、刑務所側が直接指示を出すことに問題はない。しかし、請負契約であれば、指示を出す権限は契約先の会社にあり、発注元の刑務所が出すことはできない。

契約は請負なのに実態は派遣という状態は、違法派遣の一つ「偽装請負」に該当する。

労働者派遣は厚労相による許可があれば事業を営むことができるが、いわゆる「中間搾取」につながるため、期間や形態は法律で厳しく規制。そもそも法規制の枠外に置かれる「偽装請負」では、労働者が適切な保護を受けられず、不利な条件で働かされかねないため、違法となる。

男性の申告で大阪労働局は28年、刑務所側に是正を指導。翌29年1月に契約が請負から派遣に切り替えられたが、男性は同3月末に雇い止めとなり、運転手を続けることができなくなった。

厚労相答弁は「直接雇用」

男性は29年11月、国に対し27年10月施行の改正労働者派遣法に基づく直接雇用と、運転手を続けていればもらえた賃金を求める訴訟を大阪地裁に起こした。

改正後の労働者派遣法では、派遣先(発注元)の公的機関で違法派遣が発覚した場合、公的機関がその労働者に対し、「採用その他の適切な措置を講じなければならない」(40条の7)と定めている。

民間企業については同法40条の6に規定があり、同様の場合、労働者に直接雇用の申し込みをしたものとみなす、とされている。労働者側が承諾の意思を示せば、労働契約が成立する。

いずれも、違法な契約状況に置かれた労働者の雇用安定と、違法派遣にペナルティーを科すことで派遣先の思惑を牽制(けんせい)する内容。

民間に比べ、公的機関に対する規定の表現はやや抑制的ではあるものの、法改正を審議した22年の国会で長妻昭・厚労相(当時)は、公的機関の規定も民間同様、「派遣先での直接雇用を図るという措置」だと答弁した。

厚労省は改正法の施行後3年間で民間の違法派遣を約460件指導。同時に38人を直接雇用に切り替えた会社もあり、労働者救済につながる例が増えている。

しかし、刑務所の運転手だった男性について大阪地裁は6月30日、訴えを全面的に退けた。

「適切な措置」とは

争点は、立法段階で厚労相が示した直接雇用の義務が同法40条の7に照らし、実際に公的機関に生じるのかどうか。裁判はおろか、裁判外のトラブルでも争点になったことはなく、初の司法判断だった。

提訴から4年半。判決で中山誠一裁判長は、公的機関に「採用する義務はない」とし、直接雇用の訴えを却下。条文の「採用その他の適切な措置」は直接雇用を示すとはいえず、何らかの措置を取るべきか否かも、公的機関の裁量に委ねられていると判断した。

労働問題に詳しい金沢大の早津裕貴(ひろたか)准教授(労働法)は「官民矛盾を浮き彫りにした司法判断だ」と批判した上で、「違法派遣から労働者を守る法律上の規定が骨抜きとなり、悪影響が全国に広がる可能性がある」と指摘する。

厚労省は、同法40条の7について22年に厚労相が国会で答弁しながら、長年にわたり具体的な運用指針を明らかにしてこなかった。

国会答弁から十数年。改めて、「適切な措置」とはいったい何を示すのか。

判決は、直接雇用に限ったものではなく、他の機関の職員募集の情報を提供することなども含まれるとした。その上で厚労省に取材したところ、担当者は「採用(直接雇用)がベースでそれ以外の具体例は分からない」と言葉を濁し、「判決を受け止め、検討の材料にする」と述べている。(西山瑞穂)

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