鑑賞眼

「スラムドッグ$ミリオネア」 青年の逆転劇、音楽劇で生き生きと

心を通わせるラム(屋良朝幸)とニータ(唯月ふうか)=東宝演劇部提供
心を通わせるラム(屋良朝幸)とニータ(唯月ふうか)=東宝演劇部提供

インドのスラム街出身の青年が高額賞金が得られるクイズ番組に出演、全問正解するも不正を疑われ、味方になってくれた弁護士に正解できた理由を話し始める。それは、彼の人生を振り返る作業だった-。

アカデミー賞8部門受賞の同名映画の原作となった小説を、音楽劇として舞台化した。簡単に言うと、インド版「情けは人のためならず」。上演台本、作詞、演出の瀬戸山美咲が、困難な状況に直面しても真っ当に生きようとする主人公、ラム・ムハンマド・トーマス(屋良朝幸)の逆転劇を生き生きと浮かび上がらせた。

クイズの設問や焦点を当てる過去のエピソードは異なるが、ラムの過去から難問を解けた理由を明らかにしていく構成は映画と同じ。ただ、そこにパルクールコーディネーターのHAYATEによるアクションやダンス(振付・北尾亘)、多国籍の作曲家を複数起用した幅広い楽曲を添えたことで、音楽劇として舞台化した意義が感じられる。

孤児を虐待する里親からラムと親友のサリム(村井良大)が逃げ回るシーンで登場するパルクール(フランス発祥のスポーツ)は、さまざまな動作で次々と障害物を乗り越えるさまが、物語と重なり小気味よい。ダンス巧者の屋良は、無音のステージに床を動く足音と息づかいだけを響かせる2幕のダンスシーンでも、深い悲しみと葛藤を全身で表現した。

人気クイズ番組「億万長者は誰だ!」に出場したラム(屋良朝幸、左)と司会者のプレム・クマール(川平慈英)=東宝演劇部提供
人気クイズ番組「億万長者は誰だ!」に出場したラム(屋良朝幸、左)と司会者のプレム・クマール(川平慈英)=東宝演劇部提供

サリムとシャンカールの2役に挑んだ村井は、人懐こい笑顔で、絶望的な環境でもラムの「光」であり続けた。娼婦のニータの唯月ふうかは、これまでにないすれた役どころから、年相応の愛らしい女性に変化していくさまが見事。思いを通わせながら結ばれないラムとのダンスシーンは切なく、同じ振り付けなのに同じ場所にいない、舞台ならではの表現が生きた。

過去を消してテレビ司会者としてのし上がったプレム・クマールを演じた川平慈英は、徹底していやらしい男を演じて新境地。ラムを救う弁護士、スミタの大塚千弘は、最後の見せ場で泣かせる。

階級社会の象徴のような階段の最上段にクイズ番組「億万長者は誰だ!」のステージを設けるなど、立体と平面のスクリーンを上手に組み合わせた美術(原田愛)もいい。1幕の歌のアレンジが少し単調に感じられたのは改善の余地ありだが、思わず踊り出したくなるインド風の楽曲「Everybody Clap」(作曲・XLII)が冒頭とラストを彩り、スカッとする観劇体験を約束してくれる。

21日まで、東京・日比谷のシアタークリエ。愛知、新潟、大阪公演あり。問い合わせは、03・3201・7777。(道丸摩耶)


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