小林繁伝

飛んできたバットをポイッ…球場は一触即発へ 虎番疾風録其の四(89)

巨人の長嶋監督(左)と広島の古葉監督が握手をして肩を抱き合い、試合は再開した=昭和51年4月17日、広島市民球場
巨人の長嶋監督(左)と広島の古葉監督が握手をして肩を抱き合い、試合は再開した=昭和51年4月17日、広島市民球場

赤ヘルファンの「襲撃事件」はそれで終わらなかった。ケガをして病院に運び込まれた2人のファンが「張本にバットで殴られた」と証言したのである。

翌4月17日午前、広島県警西署は長嶋監督から事情聴取。「選手の言動を慎ませるように」と注意を与えた。「オレたちの方が被害者じゃないか」。巨人選手たちは悶々(もんもん)とした気持ちで球場へ。迎えたのは赤ヘルファンの罵声だった。

「張本退場!」の大コール。スタンドには『暴力選手張本を追放せよ!』の横断幕。こんな中で小林は先発のマウンドに上がった。


◇4月17日 広島球場

巨人 110 000 000=2

広島 000 000 000=0

(勝)小林3勝 〔敗〕池谷3敗


小林はシュートとスライダーをうまく使い分け得点を許さない。そして四回、「事件」が起きた。いや、事件を起こした。

この回、先頭の大下が2球目を空振り。バットがスッポ抜けてマウンド方向へ転がった。打席から拾いにいく大下。小林もマウンドを降りてバットを拾う。手を出す大下…。すると小林は方向違いの一塁側ベンチ方向へポイッ。これには三塁ベースコーチに立っていた古葉監督が怒った。

「おい、小林! 返すのならちゃんと返せ!」。すると巨人ベンチから杉下コーチが飛び出して「なんだ、古葉監督の態度は。あれじゃ、ケンカを売ってるみたいじゃないか!」と球審に文句をつけた。スタンドのファンが騒ぎだした。外野を守っていた張本ら巨人の選手めがけて空きびんが何本も投げ込まれた。「こんな危ない状況では試合はできない」。長嶋監督が野手をベンチに引き揚げさせる。時間が経過するにつれどんどん興奮してくるスタンド。また、前日の暴動の再現か…。そのときである。

両軍ベンチから長嶋、古葉監督が歩みより、ホームベース付近で握手。長嶋監督は笑顔で古葉監督の肩をそっと抱いた。沸き上がる歓声。こうして13分間の中断の後、試合は再開された。小林の気力は充実していた。その後も得点を許さず7安打完封で3勝目。

「コバは凄い。こんな中で完封をやってのける精神力には、ただ頭が下がる」と長嶋監督。とはいえ、そもそも〝一触即発〟のきっかけを作ったのは小林。「オレたちをバカにしやがって」と、また怒っていたのである。(敬称略)

■小林繁伝90

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