朝晴れエッセー

90歳を過ぎても・8月12日

「嵐」のファンクラブに入会した。私ではない。94歳の母である。

母は、ずいぶん前から嵐の大ファンで、番組のある日は「今晩は嵐があるのよ」と朝からうれしそうだった。そんな母を「まるで女子高生だね」と冷やかしながらも、私と妹はほのぼのとした気持ちで眺めていた。母は元来クールな性格で、アイドルのファンになるなど、昔は想像もできなかった。

「5人とも好きだけど、特に二宮くん。顔色が悪いけど、ちゃんとご飯食べているのかしら」と、これぞまさに老婆心。

思えば、母はおしゃれやアイドルに胸ときめかせる十代の日々を、戦争に奪われた世代である。女学生といえども動員されて、毎日、軍事工場で戦闘機の部品を作っていたそうだ。機銃掃射で死んだ同級生。爆撃で焼けた街。たまに聞く戦時下の話から見えてくるのは、生きるだけで精いっぱいの日々である。

その後、4分の3世紀を生き抜いて、母の今の一大心配事は「嵐の解散」だ。

「ファンクラブの会員数が増えたら、解散はやりにくくなると思って入会したのよ」。届いた会員カードを大切そうに手のひらに乗せて、「会員番号は307万×××だって。大勢いるけど、きっと私が最高齢よ」と、いたずらっぽく母が笑う。

「いやいや、上には上がいるものよ。最高齢ファンになりたかったら、もっと長生きしなくちゃ」と私。アハハと笑う老母がまぶしい。


長友澄子(72) 横浜市金沢区

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